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売買契約(1)
売買契約(1)
弁護士の八木です。
今回は、「売買契約」について触れたいと思います。
1 売買契約は、実務上非常に多く登場する契約です。
不動産、動産、その他権利などを売り買いするときの契約です。
我々が多く手掛けている債務整理業務でも、売買契約は数多く登場します。
2 破産業務において、財産清算のために、破産者の財産を金銭に換価しければならない事が多いのですが、
その際、売買契約が重要な役割を果たします。
売却は、破産手続前に代理人主導で行う場合と、破産手続中に破産管財人主導で行う場合に分けられます。
このような破産手続に関連する売買契約において重要なことはまず、
⑴ 適切な売却価格で早期に売却する
⑵ 売却後のトラブルを回避する
の2点になります。
⑴ 適切な売却価格で早期に売却する
確かに高く売れるに越したことはないのですが、高く売ることを目指して、良い買い手が出るまで粘るなど
して、売却するまでの期間が長引いてしまうことは、結構あることです。
そうしますと破産手続が遅延し、手続進行の妨げになるので、ある程度の適切な値段で、早期に売却する
ことが大事とされています。
⑵ 売却後のトラブルを回避する
売却にあたっては、早期かつ高額売却を心がけるべきではあるのですが、その後、その売買契約に基づく
責任(例えば契約不適合責任(旧法上の担保責任))が発生してしまうと、折角早期に不動産売却しても、
その後発生する責任問題の解決のために時間が取られてしまいます。
特に破産手続中、破産管財人が売主になる場合、破産管財人の任期は破産手続終了までで、その終了後、
契約不適合の事実が発見されても、事実上破産管財人に責任追及できない、という特別な事情もあります。
そこで、このような場合、売主が契約不適合責任を負わない旨の特約を付けて売買契約を締結することに
なります(民法第572条)。
実際、かかる特則が付くことで、売却代金を値引きすることも多いのですが致し方ないことであります。
3 更に大事なことは、抵当権が物件に設定されている場合の対処です。
⑴ 抵当権者は、破産手続とは関係なく、その権利の実行をすることができます
。 ここでいう権利の実行とは、抵当権の被担保債権回収のために、不動産の競売申立をして、その競落代金
から債権金額を回収することです。
⑵ 例えば代理人(破産管財人)が任意売却に向けて活動しても、抵当権者が競売申立てをしてしまうと、
全てがストップしてしまう可能性が高いです。しかも、その競売で売却する場合
ア 裁判所の手続で、抵当権者等による申立、差押え、物件調査の上、
入札手続を経て売却を行うので、相応の時間と費用が掛かります。
イ またいわゆる競売物件は「(一般市場価格の)7掛け」を基準として売却基準価格を定める
と言われており、仮に売却ができて、抵当権者は債権回収に成功するものの、売主にお金が残らない
ことが多いです。
上記2⑴「適切な金額で早期の売却」という目的からしますと、競売手続はその目的にあまり合わない
売却方法であります。
⑶ そこで代理人(破産管財人)は抵当権者と交渉をして、抵当権者が満足いくような、不動産売却による
被担保債権弁済等を提案し、競売ではなく、任意売却による換価を実現する必要があります。
具体的には、
・任意売却の方が早期かつ高価な売却を実現できる可能性が高いこと、
・競売による場合、回収金額も低くなる可能性があること
を示唆しつつ、任意売却への協力を求めることになります。
⑷ また破産管財人の場合、ただ任意売却するのではなく、破産財団にいくら入れられるか(財団組み入れ)
が問題となります。
通常は、売却代金の5%から10%を組み入れを目標にするのですが、被担保債権金額が大きすぎる等の
事情で、5%以下の組み入れしかできない場合、任意売却換価の許可が裁判所から出ない可能性もあり、
任意売却を断念せざるを得なくなります。
そこで任意売却実現のため、抵当権者の受戻金(抵当権を抹消するためのお金)を減らす交渉をする必要
があります。
4 こういった売却の際の交渉が、弁護士の大切な仕事の一つであったりします。
以上
消費貸借契約
今回は、貸借契約の最後の一つ、「消費貸借契約」について触れたいと思います。
1 消費貸借契約は、実務上多く登場する契約です。
お金の貸借をはじめとした、物の貸借の際に締結される契約です。
我々が多く手掛けている債務整理業務のうち任意整理は、この消費貸借契約の変更という位置づけになります。
2 ところで、民法改正により、この消費貸借契約のあり方が大きく変わたことは既に周知のことかもしれませんが。確認していきたいと思います
本来、金銭の消費貸借契約は、要物契約と申しまして、金銭授受をすることで契約が成立する、という仕組みになっておりました(民法第587条)。
ところが今回の改正で、金銭消費貸借の合意をすれば、契約が成立する、と変更されました。ただし、書面を交わすことが条件になります(民法第587条の2)。
改正の理由は、現在の実務のあり方からして、金銭授受が行われなければ契約が成立しない、という仕組みが合わなくなってきたからです。
実務上は、諾成的消費貸借の合意、つまり金銭授受が無くても消費貸借契約が成立する、という概念を認めるに至っていたほどです。
お金を受け取るまでは契約が成立しない、というのは、ビジネスの世界では、不安が生じる話ではありますので。
3 ただ、お金を借りる側にしてみると、契約の成立に慎重でありたい、という見方もあるかもしれません。
そこで今回の改正では、契約内容の明確化のために書面を要求するだけではなく、上記の金銭消費貸借合意をした後でも、お金の交付を受けるまでは、借主に契約の解除権を認めています(民法第587条の2 第2項)。
ここで実際、消費者金融でお金を借りるときのことを考えますと、
⑴ 借金の申込みをする(専用の申込機やインターネットから)。
⑵ 申込みを受けた消費者金融が審査をして、融資決定をする。
申込者がブラックリストに載っているか否か、申込金額の妥当性などが審査対象になります。
そしてこの審査は現在、とてもスピーディーに行われています。
⑶ 融資決定後、申込者の指定する口座に融資金額を振り込む。
この融資決定後の振込も実にスピーディーに行われています。
そうしますと、いわゆる消費者金融からの借入の場面では、前述の解除権が出てくる機会はほどんどないことになります。
むしろ、消費者金融からお金を借りる人の殆どは、スピーディーな融資を希望されるはずなので、むしろ解除権があっても・・・、というところだと思います。
かかる解除権が有用となる場面は、一般の消費貸借契約を締結する場合であると想定されます。
4 この消費者金融からお金を借りる際にもう一つ問題となるのが、「書面を交わすこと」です。
インターネットからの申込の場合ですと、書面が存在しないままに取引が進んでしまう場合がほとんどです。
そこで民法はかかるネット上の契約について、「電磁的記録」(PDFなど)によるものであれば書面によってなされたものとみなすと定めています(民法第587条の2 第4項)。
まさに現代のネット社会に適合した改正ではあります。
5 現在は、急いで消費者金融に一旦申込をしてしまうと、途中で取り消したり、引き返すことがとても難しい形になっております。
申込みの際、消費者金融側でも、申込みの際、確認ボタンを押すことをお願いしているなど、申込みの決断機会を設けています。
一旦借り入れをしてしまうと、相応の利息が発生するので、ネット上からの借入れ申込みについては、慎重に判断したいものです。
以上
使用貸借契約
今回は次の「売買契約」ではなく、貸借契約の一つ、「使用貸借契約」について触れたいと思います。
1 使用貸借契約は、実務上意外と登場する契約です。
賃貸借契約のところで、日本の住戸数のうち、35パーセントくらいが貸家であるとの指摘をしましたが、使用貸借契約の数はおそらく、その10分の1にも満たないのかもしれません
しかし、その契約があるおかげで救われる人も少なくない、という特殊な契約です。
2 例えば、期間を定めることなく、無償で建物を貸した場合、貸した人がすぐに建物を明け渡してほしい、と要求するとします。
しかし、借りた人にも生活があり、すぐに、というわけにもいかないし、そもそもほかに行くところがなければ、明渡はできれば回避したいというケースも存在します。
その際、使用貸借契約が成立し、かつ、存続することが主張できれば、長期間とは言えないものの、明け渡しを回避し、ある程度居住を続けることができる、という形にすることができます。
3 どのような場合に、明け渡しを逃れることができるのか。
⑴ 使用貸借契約が成立していること
さすがにそうでないと、明渡は拒めません。
⑵ 使用貸借の期限が到来していないこと
使用貸借契約を締結する際、期間を定めている場合は、その期間内は明け渡しを逃れることができます。
⑶ 期間を定めていない場合はどうか。即明け渡しとなるか。
ア 使用貸借の目的に従った使用収益が完了したのか
イ アの使用収益に足りる期間が経過したのか
という観点から判断されると言われています。
これは、使用貸借の合意をする場合、貸す期間を明確に定めて合意することは多くなく、むしろ、借主の、何らかの目的達成のために貸すこともあり、その場合、無償でもいい、という事が多いからです。
典型的な使用貸借の例としては、家を建て替える際、数カ月くらい別の家に家族で済む必要があるものの、アパートを借りるには期間が短すぎて不動産屋さんにも「そういう物件はない」と言われたとき。
「いつ終わるかは明確にわからないと思うけど、建て替え期間くらいならいいよ、勿論無償でね」ということで、お友達の持っている家の使用貸借契約を締結する場合です。
4 使用貸借権は相続されるのか
⑴ 相続事件では、被相続人が居住していた借家の扱いが問題になることがあります。
被相続人死亡により、使用貸借契約は終了するのでしょうか。
前回触れた通り、賃貸借契約は存続するのですが、使用貸借契約には、民法597条第3項に「使用貸借は借主の死亡により終了する」と定めがあるので、終了してしまいます。
そうしますと被相続人と同居する子や親戚の人は、その家を出ざるを得なくなるのですが、これで良いのでしょうか。
⑵ ここで被相続人との間で明確な合意「契約は終了しない」「同居の子が引き継ぐ」という内容の合意があれば、存続すると解釈されています。
条文で「終了する」って書いてあるのに、そういう合意っていいの?という疑問が浮かぶところですが、実は、このような条文の内容に反する合意が有効になる場合もあります。
民法597条第3項の定められた趣旨は「使用貸借、貸主の借主に対する厚意に基づく無償の合意であるから、その厚意の対象である借主が亡くなれば、貸主の合理的意思として契約が終了するのは当然」ということです。
なので当の貸主が「存続しても大丈夫だよ~。息子たちも住みなよ~」と借主に約束した場合、存続させても問題はないことになります。
このように、民法上で契約終了を定める条項があっても、その条項が、貸主の合理的意思を推測して終了させる、という趣旨で定められた場合、当事者の「存続する」という合意があれば、終了せずに存続させても良い、ということになります。
なお、そのような趣旨(貸主の合理的意思推測)ではなく、別の理由(公益的理由など)で契約終了を定めている場合、当事者が存続を合意した場合でも、それが有効とならないことがあるのには注意です。
⑶ さらに⑵の考え方を進めて、明確な合意がなくとも、被相続人と借主とが生前、黙示の合意をしていると認定できる場合は、同じく例外として使用貸借契約を存続させて良い、という判断もあります。
例えば、借主だけではなく、被相続人の子や親族も同居している場合、被相続人の子が,被相続人死亡後も居住をとがめられることなく、長期間居住していた場合、貸主による「黙示の」承諾があったものとして、期限の定めのない使用貸借契約が成立したものとします。
そして、いつ使用貸借契約が終了とするのかを判断するため、使用貸借に関する諸事情を考慮したうえで、建物所有の場合、「その目的に従った使用収益」がいつ終了したのか、又は、その使用収益に足りる期間が経過したのか、を検討することになります。
存続期間=永年ということですと、貸主の負担が大きすぎるからです。
5 実は使用貸借には、もっと問題があるのですが、本稿ではここまでにしたいと思います。
以上
賃貸借契約
1 賃貸借契約は、民法上で重要な契約です。
日本の住戸数のうち、35パーセントくらいが貸家であるとのことで、そのような貸家の法律関係をどのように律するかは社会的に重要事項です。
また、他の契約(特に使用貸借・消費貸借)との違いに注意する必要があります。
例えば、建物を目的としていても、賃料など対価が発生しなければ使用貸借、目的物が建物ではなく、金銭などの代替物と呼ばれるものが目的であれば消費貸借(借りたものそのものではなく、同じものを同じだけ返すことを想定している契約)と言われています。
2 賃貸借の特徴について(特に契約期限について)
⑴ 賃貸借契約は、ある物(土地、建物その他諸々)の使用・収益をさせること、使用収益の対価、及び契約終了時の返還約束を約し、以て契約の内容とします。
⑵ 注意が必要なのは契約期限で、「無期限の」賃貸借契約は、需要はあるのかもしれませんが、民法上は最長期50年に制限されていますので、かかる合意は、法律上有効な合意ではありません。
一方「期限の定めのない」賃貸借契約は存在し、一見「無期限」の契約に見えるのですが、民法上は双方が解約申し入れできる、というルールになっています(民法第617条第1項)。
賃貸人、賃借人双方ともに解約申入れをしなければ、契約が永遠に継続する、ということになるのですが、
・賃料不払い、建物朽廃を理由とする賃貸人の解約申入れ、
・転勤、住むのに飽きたなどの理由による賃借人の解約申入れ
が、契約開始日から相応の期間経過後に行われることが多く、永遠の賃貸借、という状況はほとんど作出されないと思われます。
⑶ 土地建物賃貸借の場合、借地借家法による制限を受けるので、特に賃貸人が自由に解約できる話ではないので注意が必要です。
他の契約と異なり、賃貸借契約では、存続期間や終了期限、終了方法について特例法(借地借家法等)が定められています。
これは沿革上、賃貸人の意向が反映され、賃貸借契約終了により賃借人が不利益を受ける(生活の本拠を失う)という実態があったので、賃借人保護の観点から、法律による制限を加える必要があったからです
3 賃貸借の特徴について(相続されるのか)
⑴ 相続事件では、被相続人が居住していた借家の扱いが問題になることがあります。
被相続人死亡により、賃貸借契約は終了する、と思いきや、賃借権も権利で、賃貸借契約に基づく債務と共に、相続人に相続されるルールになっております。
そうしますと被相続人と近い、実子や親戚の方が諸々の負担を負いつつ、賃貸借契約の完全終了目指して処理を進めていくことになります。
⑵ ところが被相続人と疎遠の相続人は、困ってしまいます。
・貸室内遺品を誰に渡すのか、渡さずに処分しても良いのか、
・大家さんから「遺品引き取って」と言われたが・・・・
・大家さんからリフォーム代金を請求されています
などのお話を聞くことがあります。
選択肢としては
① 覚悟をして全部引き受ける
② できそうなことは引受ける→一部相続はできないので、①と同じ結論になる【相続の承認】)
③ 知らんぷりをして引き受けない
などありますが、③のパターンが多く、誰も引き受けてくれないと大家さんが困ることになります。
独居高齢者の方が増えていらっしゃるので、このような問題は増えてきております。
4 終身建物賃貸借制度の活用
⑴ そこで「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が平成13年8月に施行され、賃貸人が高齢の居住希望者と 「居住者の死亡により賃貸借契約が終了する」内容を含む終身建物賃貸借契約を締結し、問題の解決を図ろうとしております。
注意すべきは、本法律の適用対象は、地方公共団体の長(例:東京都知事)から認可を受けた業者が賃貸人になれる、という点です。
このような契約を認可制にしたのは、このような契約を利用して、高齢者を食い物にする悪徳業者が増えることを防ぐためと考えられます。
このような制度の利用を希望なされる高齢者の方は、東京都民間住宅部など、都道府県の住宅に関する部署に問合せすると、対象業者の情報をもらえるとのことです。
⑵ ただ実はこの問題は、「居住者の死亡により賃貸借契約が終了」し、賃貸借契約が相続人に相続されないだけでは、完全な解決にはなりません。
被相続人が残した物(残置物)の問題があります。
相続人全員が相続放棄をして残置物を引き取ってくれない場合など、残置物の所有者がいない場合、その残置物の所有権は相続財産管理人が就任して管理しない限り、宙に浮いてしまいます(相続放棄後の元相続人が、自己の財物と同じ程度の注意で管理する、という最低限の義務は付きますが。)。
このような場合、大家さんが相続人ら又は相続財産管理人に対して貸室の明渡請求を行い、勝訴後、残置物を貸室から排出することができるようにはなるのですが・・・
① 相続人全員が相続放棄、かつ相続財産管理人が選任されていない場合、明け渡し請求訴訟を起こす相手がいるのか
② 仮に、大家さんが債権者として、相続財産管理人の選任を裁判所にお願いするとして、明渡をするまで、相応の費用と、すごく手間のかかる話になります。
②のような苦労をするくらいなら、リスク覚悟で、黙って貸室の処分をした方がよほど良いのではないか、という話も聞くくらいです。
⑶ そこで、そのような問題を解決する手段として、予め賃借人の方と「残置物の処理に関する委任契約」を締結し、賃借人の没後、賃貸人が残置物を処分できるような合意をすることが提唱されています。
その具体的な内容は、国土交通省および法務省による「残置物の処理等に関するモデル契約条項の解説等」に記載されています。
⑷ そして残置物の処理で、筆者が最大の問題点と認識しているのは、
「いわゆる金目のものが見つかった場合、どう適切に処理するのか」
「そもそも金目のものについて適切な処理が期待できるのか」です。
独居なされていた被相続人と、(推定)相続人としてつながりがある人が、相続放棄せずに敢えて絡んでくるケースがあるとすれば、自身が義務を負う場面ではなく、金目のものの帰属など、権利を主張できる場面と想定できるからです。
「独居者の残した財産で、多くは過少な金銭の問題だろうから、それほど目くじらを立てて対応しなくても・・・」という見方もあるのかもしれませんが・・・。
この問題点に関する契約内容を確立し、きっちりとした運用がなされなければ、この契約制度自体が成り立たないと考えています。
文言の内容はさることながら、業者が適切に金目のものの換価などをきっちり運用できるかがこの制度の鍵になると考えます。
「独居の方が亡くなったケースで、契約によると相続人が出てくるかど うかわからない状況、目の前には現金がある、それは今のところ作業員以外誰も知らない、という状況」
で適切な換価業務ができるのか。
5 最後に、令和7年10月に施行された改正法により、より上記業者登録手続が簡易化され、登録業者が増え、利用機会が広がりそうです。
良い話だと思いますが、上記4⑷の話と合わせますと、業者の増加に伴う、業者による業務の質確保が、より重い課題になるものと考えています。
以上
雇用契約
1 雇用契約は、民法上で重要な契約です。
国民の多数が労働者である日本において、雇用契約自体、重要な契約であることはもちろんなのですが、他の契約(特に請負、業務委託)との違いに注意する必要があります。
例えば請負契約のところで触れた「偽装請負」という現象は、雇用主が、雇用契約に基づく様々な義務を免れるための方便として出てきたことはすでに述べた通りです。
2 雇用の特徴について
雇用は、雇主の指揮監督命令に従い、特定の業務を遂行する、そして一定の基準により賃金の支払いを受けることを契約の内容とします。
請負、委任とは、他人の労務を利用する契約、と言う共通点はあるものの、その違いは、以前のブログで少し触れたこともあるのですが、以下の通りです。
ア 雇用
雇用主の指揮監督命令に基づき業務を行う
業務の完成について結果責任を負わない
時給制など、定められた一定基準で賃金を算定
→ 会社や個人事業主の従業員
イ 請負
発注者と請負人との間に指揮監督関係はない
業務の完成について結果責任を負う
請負業務の完成を予定した請負代金の設定
→ 家屋建築、シナリオの制作
ウ 委任
委任者と受任者との間に指揮監督関係はない
業務の完成について結果責任を負わない
業務継続を前提とした報酬の設定
→ ビル管理・清掃業務、コンサルティング
3 このように見てみると、請負や委任は独立した当事者であることを前提として典型契約の内容が定められております。
一方雇用契約は、労働者が雇用主の指揮監督命令に従う、という労働者の行動を制限する傾向が強い契約です。
近代以降、雇用主が強い経済力を有し、経済力の弱い労働者を雇用し、その労働者の労働力を「搾取」するという構造が出来上がってしまっていました。
なぜ「搾取」という構造になるのかは、多くの説明を要する事項と思いますが、簡単に申し上げれば、
「労働乃至労力自体を提供する形態の雇用契約で、しかも雇用主に労働者の指揮監督命令権があるという状況では、経済的格差のある労働者は、雇用主に行動だけではなく、人格そのものを不当に拘束されることが多い」
ということになるのだと思います。
現在の職場環境に置き換えてみますと
(以下、口さがない表現になることをお許しください)、
「どうしてこんなことができないのかな~?給料高すぎじゃない?」
「こんなこともできないなら、他の仕事なんて到底できないな!」
「ふーん、休むんだ。この時期に有給なんて取れると思ってんだ~?」
「ここ辞めたら、ほかに行くところないんじゃないの?」
などの雇用主(ないし雇用主から労働者管理を任された管理職)による発言が行われていたとのこと。
そして理由なき給料大幅カット、不当な配点替え、有給取るのを(自主的に)やめさせる、退職させないよう圧力をかける、といった、労働者にとって不利不当な行為が行われ、労働者の行動だけではなく、人格そのものまで不当に拘束される状況でした。
4 少し前置きが長くなりましたが、民法上の雇用契約の定めだけでは、以上のような労働者に対する不利不当な行為を完全に防ぐことはできません。
そこで、民法上の雇用契約の定めを前提として、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法など、労働に関する法律が別途成立・施行されております。
これにより、雇用契約における雇用契約の内容制限、雇用主の行為制限(特に解雇)、雇用主に対して雇用に関する要求をするための手段(組合結成、組合活動)確保、雇用主との関係調整手段確保が図られております。
そして以上にあげた職場環境は、労働基準法などの法制に基づき、労働基準監督署の介入などにより、職場環境が是正されていく流れができています。
5 そうしますと経営者の立場からは、
「雇用では制約が多すぎるし、社会保険に入らなきゃいけないし、コストパフォーマンスが悪すぎる」
という考えから、実際は雇用契約(ないし労働者派遣)の内容なのに、契約書は請負契約、と言う形で人を雇う、という現象も生じました(偽装請負)。
かかる偽装請負については、労働者派遣法により制限をかけるようにしております。
それ以外にも、
△ 単純に社会保険に加入していない
△ 給与金額(時給)が東京都の最低金額を下回っているのに引き上げない
△ 何か気に食わないことがあれば従業員をいじめる
などの、完全に法律を無視しているかのような行為も、いまだに行われていると言われています(以前よりは改善されてはいるとのことなのですが)。
我々弁護士は、かかる問題に対して、労働者、経営者、それぞれの立場で考察をし、よりよい解決方法を探っていくべきと思います。
以上
請負契約
1 請負契約は、それ自体民法上では重要な契約です。
現在も、委任契約との違いが重要となっております。
また昨今では「偽装請負」という名称で、雇用主が、雇用契約に基づく様々な義務
を免れるための方便として出てきたりするようです。
2 請負の特徴について
請負は、特定の業務の遂行を請け負うことを契約の内容とする契約を言います。
業務遂行を請け負う、というのはその業務を完成させることが重要です。
結果責任を負う、という言い方をすることもあります。
特定の業務を任せられるという点で委任契約と共通する部分はあるのですが・・・。
委任契約は業務の継続をその本質としており、必ずしも完成を求められるものではありません。
例えば、請負の対象となる業務として、
家屋の建築、機械などの製作など、いわゆる有体物の作成を想定するもの、
シナリオの制作、舞台出演など、無形のものの作成を想定するものがあります。
一方、委任の場合、ビル管理・清掃業務、コンサルティングなどとなっております。
なお弁護士の訴訟業務の場合、勝訴を業務完成と想定せず、
あくまでも訴訟手続の遂行が委任契約の内容となっております。
3 「偽装請負」について
この言葉だけを聞くと、請負「を」偽装した何か、
それとも請負「に」偽装した何か、
と想定されるのですが、
文字だけでは何を偽装しているのか、ちょっとはっきりしません。
そこで、東京労働局のサイトで偽装請負について確認をしてみると
⑴ 形式的には請負契約(委任契約だったり、業務委託契約だったりすることも)なのですが、
実際は労働者派遣契約であることを指します。
A(請負人)――請負契約(形式)――B社(注文者)
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C社(Aが実際に働く職場)
Aは、C社で請負の仕事をして働く話になっていたが、実際はB社の指示で働いている。
具体的には、CにおけるAの出社、退社の時間を決めているのはB、
Aの業務について細かい指示を出すのもBのようです。
「これじゃBに雇われている体で、Cへ派遣された労働者だな」
と思っても、Bとの契約書は請負契約と書いてある。
⑵ そして請負契約なので、有給とかの話はどこからも出ない。
そういえば社会保険は?、と思っても、誰に話を聞いてよいかもわからない。
思い切ってBの担当者に話をしても、やはり
「請負なんで、うちじゃないですね。」というにべもない回答が・・・。
⑶ さらによく確認してみると、労働者派遣を行うには厚生労働大臣の許可が必要、
と労働者派遣法に定められているらしく、
「うん、B社さん、こういう許可得てんのかな?」となりました。
そもそも契約書は請負って書いてあるけど、形は労働者派遣・・・、
これはまずいのではない、とAさんは気付き始めました。
⑷ そもそもB社のやっていることが法律に違反している可能性が高い点、
そして雇用に関する責任の所在(責任取るのB社では?)が明確にならない点が、
偽装請負の悪い部分と言われています。
確かにAさんは働いたらお金をもらえるのですが、
それは雇用契約に基づくものではないので、
有給、社会保険関係など、雇用契約で保証されている権利の主張ができない
ということになります。
こういった責任の所在を明確にせず、雇用契約で保護されるべき
労働者の人の権利があいまいにされることこそ問題なのです。
⑸ 最近では、雇用主に対する厳しい対応がなされておりますが、
自分の働いている環境に疑問を覚えた場合は、
労働基準監督署や、弁護士さんに相談をするべきです。
一方企業としては、このような不正が行われないように注意をする必要があります。
また、不正の認識がなくとも、結果として労働者派遣法違反に問われる可能性もあるので、
労働者を他所で働かせる事業を行う場合、違反にならないように注意が必要です。
以上
委任契約
委任契約は、我々弁護士にとっては重要な契約です。
その契約の意味をちゃんと理解しないと、とてもひどい目に遭うことになります。
私が受験生のときは、委任契約と言えば、
「請負・雇用との違い」、「民法総則の代理との違い」など、
他の概念との違いが典型的な問題として出てきました。
こちらの業界に入ってからは、他の概念との違いが問題を生み出しているのはもちろんですが、
「委任契約」そのものを理解することにも注力しています。
委任契約で、
結果の請負(必ず結果が出ます、と約束する)は本当に許されないのか、
受任者としてお客様のためにどこまで行動をすべきなのか、などなど。
そして現代において、偽装請負問題(雇用契約か、請負ないし委任契約か)
など、委任契約に関する問題は尽きないと思います。
2 委任契約の契約内容
⑴ 委任契約の主な契約内容は、
「委任者からの依頼で、受任者が他人の事務処理を行うこと」
です。
弁護士を志し、勉強を始めた当時、
「事務処理」ってなんやねん、
なんか無機質な言い方だな、
と思っていたのですが・・・。
どうやら委任契約の対象として、色々な内容を含むようにするため、
よく使われる「業務」とか「法律行為」とか限定する言葉を使わなかったようです。
⑵ 委任契約の受任者にとって大事なことは、
委任者から、事務処理を行うために必要な裁量を与えてもらうことと思います。
裁量がなく、指揮命令関係に基づいてしか事務処理を行えない(雇用に近いです)となると、
事あるごとに、いちいち委任者にやるべきことを確認しなければならないことが増え、
受任者はやってられなくなると思います。
ただ、受任者である弁護士として業務を行うにあたっては、
「依頼者の方の意向を絶対に無視してはならない」
ということは強く思います。
そのことに思いを致さなくなった場合、
依頼者のために何をすべきか、どこに向かうべきか、わからなくなってしまうからです。
3 事務処理に付随する問題:復委任の問題
⑴ 事務処理の内容が複雑になり、かつ大量になってくると、
委任を受けたのは良いのですが、一人ではどうしようもなくなる時があります。
そのとき、第三者の助けを借りることが必要になります。
弁護士の場合、最初から事務所全員で委任を受ける形も多いのですが(事務所受任)、
今回は、途中から事務所の弁護士さんに事件をお願いする場合(復委任)の話をします。
⑵ 復委任とは、受任者が第三者を、事務処理の委託を行う受任者として選任することです。
本来復委任は、委任者からすれば不本意な話です。
「その人」だから任せた事件を、「その人」ではない他人にやらせるのですから。
したがって民法上、委任者の同意が必要、同意なければやむを得ない場合に限定しています。
⑶ 弁護士業界での典型例は、
この前事務所に入ったばかりの新人弁護士に、事件を担当してもらうとき、
代表弁護士から復委任状を出すことがあります。
この場合、「復代理権」授与
(復委任と類似の概念。対外的な権限である代理権を授与すること。)
の意味も兼ねます。
またお客様から委任状をいただくとき、
「復代理の選任」という委任事項を付け加えておくことも多いです。
⑷ そうはいってもお客様にしてみれば、
初見の新人弁護士が、代表弁護士(ボス)にお願いしたはずの事件処理を行うので、
なんだそれは、ということにもなりかねません。
ちなみに私は弁護士一年目のとき、こういう状況で
「この八木さんが私と一緒に事件をやるので、どうかよろしくお願いします。」
と普通に代表弁護士(ボス)の先生からお客様に紹介されました。
有難いことに、そのときは何も問題は起きませんでした。
そしてその後、その事件は「主に」一人で頑張って解決に導いたので、
少しだけ自信になりました。
そしてお客様のボスの対する信頼が厚かったからこそ、
ペーペーの自分のことを信頼してくれたのかな、とも思いました。
4 委任と代理との関係(無権代理)
⑴ 4のところで、復委任と復代理という、似たような言葉が出てきました。
委任と代理というのは似たような言葉ですが、一応、
〇 委任 受任者と委任者との関係を律する(対内的)
〇 代理 主に取引先(相手方)と本人との関係を律する(対外的)
という大きなくくりで理解できると思います。
⑵ まず委任契約をしたから、必ず代理権が付くのではないことに注意です。
委任契約は委任者との約束に基づいて受任者が事務処理を行うことなのですが、
その受任者の業務(例えば取引)の効果は、あくまでも受任者に帰属します。
ところが、受任者が「顕名」(本人のためにすることを示すこと)をして取引した場合、
その取引の効果は受任者ではなく、顕名対象である本人(委任者)に帰属します。
⑶ では受任者が顕名して、署名押印をしたまでは良いが、
その受任者が委任者(本人)から代理権授与されていない場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、無権代理という状態となり、法律行為としては無効ではあります。
ただし、委任者(本人)が「いいよいいよ」などと同意してくれた場合は、
有効となります(民法第116条)。
大抵の場合、委任契約をする際、第三者との取引等対外的な事項も任せることが多いので、
代理権授与の条項も契約内に含めるのが通常です。
⑷ 実際に起きる「無権代理」問題は、以下のとおりです。
① かつてBはA氏と委任契約(+代理権授与)をしていたが、
Bが原因のトラブルで、A氏から委任契約を解除された。
Bはその腹いせで、Aの名前でCとの間で1000万円の絵の売買契約をした
(滅権代理〔代理権消滅後の無権代理〕)。
② Dは委任契約(+代理権授与)に基づき、A氏から100万円までの絵画の売買取引を
任されていた。
しかしDは「これはイケる」と思って、Eと1000万円の絵の売買取引をしてしまった
(権限踰越代理〔与えられた権限を越えた場合の無権代理〕)
⑸ いずれのケースもA氏から「いいよいいよ」と言ってもらえなさそうです。
委任契約の場合、B,D本人が当事者になるのですが、
代理人B、Dのやり方が巧妙で、相手方のC,Eが、
B、DがホントにAの代理人であると信じて取引した場合、
A氏に契約の効果が帰属することもある、とのことです
(表見代理といいます。)。
解除されはしたが、代理権授与の外形を付与したこと(① 滅権代理)、
制限はしているものの代理権授与をしたこと(② 権限踰越代理)
が、A氏に対外的責任を負わせる根拠になると思われます。
⑹ このように、委任契約で受任者の行動範囲を縛ったとしても、
代理権授与の部分でもコントロールをしないと、委任者(A)は思わぬ無権代理行為により
損失を被ることになります。
人に物事を任せるのは難しい。
無権代理の事案にぶつかるたび、そう思います。
以上
寄託契約
1 「寄託」契約は、民法上「委任」の章の次に定めのある契約類型です。
この「寄託」という概念は「物を預かる」というもので、他の契約と比較をすると少しわかりやすくなるかもしれません。
(本当は今回、委任契約のことを書こうと思ったのですが、民法の条文を確認しますと、委任の後に「寄託」、ありましたねぇ・・・、と思ったのは秘密です。)
2 委任契約との比較
委任契約の主な契約内容は、「委任者からの依頼で、受任者が他人の事務処理を行うこと」です。
寄託契約の主な契約内容は、「寄託者からの依頼で、受寄者が物を預かること」です。
両者を比較すると、委任契約の概念が寄託契約の概念を包含するように見えます。
他人の事務処理:物を預かる場合含め、ただ預かるだけではなく、補修、改良、」処分などを含む(依頼される事務処理の内容による)
寄託:物を預かる。
3 寄託契約はなぜ、民法の典型契約として定められたのか。
⑴ 物を預かるという契約自体は昔から行われており、ローマ法以来、典型契約として存在し続けています。
例えば、旅行のときに旅行の荷物を預かる契約、倉庫で物を預かる契約、そして銀行で金銭を預かる契約(これは消費寄託と呼ばれる形態をとります)。
⑵ あえて民法が、委任と寄託を分けて定めたのは、それらの契約の根底にある
「事務処理」(預かったものの改良、処分なども可能)、
「預り」(預かって保管するのみ)
という二つの行為について、明確な区別をつけたうえで、契約内容の整理をするためではないかと思います。
⑶ また実際にモノを預けるにしても、預ける人に改良など、余計なことをしてほしくな
い場合もあると思いますので、そういう場合に役に立つ契約だと思います。
4 賃貸借契約との比較:自宅の荷物、預かります!
⑴ 最近、「自宅に置き切れないモノをこちらで預かります」、「荷物の置き場所を提供します」などの募集が増えています。
預りであればダンボール一箱数千円、置き場所であればワンセット月1万円未満から
数万円くらいなのですが、これらの募集はどういう契約の類型になるのでしょうか。
賃貸借契約なのか、寄託契約なのか。
⑵ 賃貸借契約の場合
これは、相手はスペースのみを提供し、荷物の実際の管理や、荷物の出し入れは賃借人
が行う、というパターンになります。
広めのスペースに複数のコンテナをドーンと置いてあるパターンもあれば、アパートや
マンションを改装して、細かく区切ったスペースを提供するパターンもあります。
この契約の場合、預けたモノを賃借人が自由に出し入れできるのですが、荷物破損の可
能性は否定できず、スペースの提供者は荷物破損の責任を負わないのが通常です。
⑶ 寄託契約の場合
この場合、業者が無料で預かることはまずないので、有償寄託契約を想定します。これ
は、相手が荷物を預かり、荷物の実際の管理、荷物の出し入れは受寄者が行う、というパ
ターンになります。
お部屋のいらなくなったものを段ボールに入れて、それを業者さんに送る。気が向いた
とき、必要なときにダンボールごと、またはその一部を送ってもらう、というパターンが
想定できます。
このパターンですと、業者さんが管理を行う、かつ有償契約なので、荷物の破損につい
ての責任を負ってくれる話になります。
ただ「あの預けたCDとか、聞きたいなぁ」と思っても、取戻すのに結構な手続と時間
が必要で、自由に出し入れできない点が課題です。
⑷ 管理コスト、及び破損、盗難コストの観点から両者の方法を比較しますと、価値が相
当ありそうな小物関係は、管理のしっかりした業者に寄託で預かってもらうのが良いと
思います。
一方、価値はそこそこだが、モノはデカく、業者に預けるとなるとお金がかかりそ
う、という場合は、スペースを借りて自分で管理する選択肢が賢いのではないかと思量
いたします。
また季節もの(冬服、おふとん、こたつ、扇風機、小型クーラーなど家に置き切れな
い分)は、スペースで自分で管理した方が便利というポイントもありますが、季節ごと
にしか出さないことを考えれば、あまり大きなものでなければ、寄託の形で預けるのも
アリかもしれません。
5 このように、寄託契約は現代の生活の中にも確かに存在する契約なのです。
以上
組合(特に労働者協同組合)
弁護士の八木です。今回は、組合について説明いたします。
1 組合と言えば、株式会社ではなく、あえて組合やその他の形態による団体を立ち上げて事業を行う、ということが行われるようになりました。
株式会社は営利を目的とした行為をすることを想定しており、営利を目的としない事業を行うには、そぐわなかったからです。
2 団体として非営利事業をやる場合、組合だけではなく、公益法人、NPO法人、法人格のない任意団体といった様々な形態での立ち上げが考えられます。
なお非営利事業とは、事業によって得た利益を構成員に分配することを目的としない、例えば社会貢献実現のために使うことなど、営利を目的としない事業が想定されます。
3 組合は、組合契約に基づいて組合員がその契約に基づいて事業を行う、という形態で、先の会社や法人と比べて、組合員個人を重視する形態になります。
しかし組合には法人格がないので、組合自体取引主体になれない,組合名義の預金口座が作りにくいなど、事業を行う際の欠点が存在します。
最近ですと、「協同組合」という形での設立であれば、法律に基づいて組合に法人格が付与されますので、協同組合の形が取れれば、その欠点は解消できます。
なお日本には「協同組合法」という法律自体はなく、中小企業等協同組合法、農業協同組合法、水産業協同組合法、消費生活協同組合法などの法律が定められており、各法に基づき、それぞれの協同組合設立、法人格付与が認められています。
4 さらに労働者協同組合という新しい組合を設立できるようになったのですが(2022年法律成立)、ここでいう労働者協同組合は、民法上の組合や上記各協同組合(特に中小企業等協同組合)、会社、NPO法人などとは以下の点で異なります。
⑴ 労働者協同組合とは、労働者が主体となって、特定の事業を行うという組合です。
民法上の組合と異なり、労働者協同組合法第2条第1項で「労働者協同組合は法人とする」と定めています。
⑵ また労働者協同組合は「営利を目的とした行為」を行ってはいけません(同法第3条第3項)。
営利目的行為を想定した会社とは大きく異なります。
ここでいう「営利を目的とした行為」とは前出の通り、「出資の持分に応じた剰余金の分配を目的としない行為」と言われています。
⑶ 労働者協同組合は、一定の要件を満たして登記を完了すれば、それで法人格が付与されます(準則主義)。
同じ協同組合である各協同組合は、法人格付与には所轄官庁の認可が必要であったりします。
この認可の要否が、設立のしやすさにつながっています。
なお、労働者協同組合であったとしても、許認可が必要な事業を行う場合は、その許認可がないと当該事業ができないことは言うまでもありません。
⑷ 非営利事業を行う場合、一時期NPO法人の設立が多く行われましたが、NPO法人は所轄官庁の認証がないと設立できないこと、NPO法人への出資はできず、会費や寄付のみで法人の財政を賄うことが予定されていることから、ある程度NPO法人で進めてきた事業を大きくしたい場合、そのままNPO法人では賄いきれない場合があります。
相応の事業規模を目指すことが最初から想定できていれば、当初から出資行為ができる労働者協同組合を選択すべきと考えられます。
なお労働者協同組合法は、同法成立から3年間の間、NPO法人から労働者協同組合への組織変更を認めていましたが、当初はボランティア目的で始まったNPO法人を成長させていく手段として、NPO法人から労働者協同組合への組織変更、というのは合理的な手段であると考えられます。
5 以上の通り組合の概念は、民法上の組合から始まって、世の中のニーズに併せて今も変化し続けています。
以上
和解
1 「和解」。弁護士にとっては、とっても大事な言葉で、同時に、とっても難しい言葉でもあります。
2⑴ 互譲の精神とは
民法の第695条によりますと、
「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」
とあるのですが、この中の「互いに譲歩をして」の部分を「互譲」と略し、私が和解とは何かを説明する際、まずは、この「互譲」の精神が大事なんです、とお話させていただいております。
ただ実際にやってみますと「お互いに譲歩する」というのは難しいです。
以下具体的な「互譲」の例を挙げてみます。
質的な譲歩:色々な条件付けを提案しあい、お互いに譲った、と言えるところまで具体的な条件を煮詰める場合です。
例えば貸しているアパートの一室を明け渡してほしい、という事案で、
① 立退料を払うか、
② 実は賃料支払が遅れているが、それもチャラにするか
など、貸室明渡をもとめる代わりに、相手にお金を払う、賃料を請求しない等の「譲歩」をする場合です。
量的な譲歩:貸金返還請求の事案で重要とされる要素です。例えば貸金300万円を請求している事件で、
借主「100万円なら払えるけれども・・・」
貸主「200万円ならいいんだけどなぁ・・・。」
という金額の「譲歩」をする場合です。
⑵ 和解は自由である。
⑴で互譲の例を挙げましたが、この互譲のための条件(特に質的な譲歩)はある程度自由に発想できるものではあります。当然、法に触れるような合意はダメです。
上記の例は、お金を中心に条件設定をしている印象ですが、当事者で話し合いをしているうちに、当事者が大事に思っているもの、重要と認識しているものが判明した場合、それらに関する条件付けをしてあげることで、和解がまとまる、ということもあります。
例:月に1回、会う(離婚の事案。子供の面会交流ではなく、元夫婦間のもの。離婚はするんだけど、離婚後も交友関係は維持したい、という一方の要望があったケース)
例:家を相続する代わりに、少なくとも遺産分割協議成立日から10年は、この家に住み、この家を売らない(相続の事案。亡き両親の思い出があり、家を風化させないでほしい、簡単には売ってほしくない、という、家を相続しない相続人の思いを、和解の条件にまで昇華したケース)
このような発想は、事件を担当する弁護士が、お客様の思いに耳を傾けたときに、浮かんでくる発想なのかもしれません。
また第三者としての立場にもある弁護士ゆえ、当事者間では言いにくい内容も提案できる、という要素もあります。
3 それでは皆さんが当事者として「和解」に臨む場合、どのような心構えがあればよいのでしょうか。
⑴ 過剰に「互譲」の精神を意識しすぎない
確かに「互譲」の精神は大事なんですが、あまりにもそのことを意識しすぎて、自分が本当に求めたいことを完全に見失ってしまう、ということがあります。
あまり、自分の代理人のアドバイスや、和解における相手方の要求や、間に入る方(調停委員の先生や、裁判官の方)の意見に吞まれないようにしましょう。
⑵ デッドラインを心に決めてはおく。でもそれを言うのは最初からではない。
他人の意見に呑まれないために、自身の納得できる最低限の内容を心の中で決めておくことは重要です。
別に他人に言うことはないです、ましてや、和解交渉をする相手方には。
そういう時にこそ、自分の依頼した弁護士の人に相談して、決めていくのが良いと思います。
⑶ デッドラインの決め手となるのは「最悪の想像」。
自分が想像できる「最悪の事態」を想像して、それでもこれなら許せる、という条件を決めるべきと思います。
先の貸室明渡の件で申し上げますと
ア 部屋を追い出されたら、楽しい思い出も消えちまうのかな?
イ で、追い出されて次の部屋がなくて、路頭に迷うか俺は?
ウ あと、お金がなくて契約できない、生活できないのも厳しい。
という、部屋を追い出される自分の最低限を想像したうえで、
ア (思い出もあるが、自分の部屋を)明け渡すのは認めよう。
イ でも、不動産屋さんまわりするのに最低三カ月は欲しいな。
ウ 敷金礼金とか、50万円で足りるかなあ?
と言った、追い出されても納得できる条件を考えます。
その上で、「3カ月は譲れん!」と心に決めるか、「やっぱり敷金礼金合計40万円で借りられるところにしよう」などと妥協するかを考えて行けばよいと思います。
こういうところを、自分の弁護士さんとお話すると、良い方向にお話が進むかもしれません。
⑷ さらにここで、今回明渡を請求してきた大家さん側に
「次のいい物件、そちらで御紹介いただけますか?」
という今回の和解条件とはちょっと違う提案もできそうなんですが・・・、
これはやりすぎかもしれません。
だって、仮に今回、賃料が払えなくて追い出される場合、部屋をめちゃくちゃにしたから追い出される場合、そんな信用のおけない人物を、他の物件の大家さんに紹介できるかと言えば難しいです。
かえってあなたの印象が悪くなるかもしれません。
相手への提案内容は確かに自由なんですが、注意が必要です。
⑸ 今回は貸室明渡を例に、和解のときの考え方をお話してみましたが、他の場合でも基本は変わりません。
とにかくどんな状況でも、未来の自分を明確に描き、そこに迫らんとすることが重要だと思います。
そして弁護士さんが側にいるときは、なんでも、とは申し上げませんが、色々と相談をしてみてください。
以上


