賃貸借契約
弁護士の八木です。今回は、「賃貸借契約」について触れたいと思います。
1 賃貸借契約は、民法上で重要な契約です。
日本の住戸数のうち、35パーセントくらいが貸家であるとのことで、そのような貸家の法律関係をどのように律するかは社会的に重要事項です。
また、他の契約(特に使用貸借・消費貸借)との違いに注意する必要があります。
例えば、建物を目的としていても、賃料など対価が発生しなければ使用貸借、目的物が建物ではなく、金銭などの代替物と呼ばれるものが目的であれば消費貸借(借りたものそのものではなく、同じものを同じだけ返すことを想定している契約)と言われています。
2 賃貸借の特徴について(特に契約期限について)
⑴ 賃貸借契約は、ある物(土地、建物その他諸々)の使用・収益をさせること、使用収益の対価、及び契約終了時の返還約束を約し、以て契約の内容とします。
⑵ 注意が必要なのは契約期限で、「無期限の」賃貸借契約は、需要はあるのかもしれませんが、民法上は最長期50年に制限されていますので、かかる合意は、法律上有効な合意ではありません。
一方「期限の定めのない」賃貸借契約は存在し、一見「無期限」の契約に見えるのですが、民法上は双方が解約申し入れできる、というルールになっています(民法第617条第1項)。
賃貸人、賃借人双方ともに解約申入れをしなければ、契約が永遠に継続する、ということになるのですが、
・賃料不払い、建物朽廃を理由とする賃貸人の解約申入れ、
・転勤、住むのに飽きたなどの理由による賃借人の解約申入れ
が、契約開始日から相応の期間経過後に行われることが多く、永遠の賃貸借、という状況はほとんど作出されないと思われます。
⑶ 土地建物賃貸借の場合、借地借家法による制限を受けるので、特に賃貸人が自由に解約できる話ではないので注意が必要です。
他の契約と異なり、賃貸借契約では、存続期間や終了期限、終了方法について特例法(借地借家法等)が定められています。
これは沿革上、賃貸人の意向が反映され、賃貸借契約終了により賃借人が不利益を受ける(生活の本拠を失う)という実態があったので、賃借人保護の観点から、法律による制限を加える必要があったからです
3 賃貸借の特徴について(相続されるのか)
⑴ 相続事件では、被相続人が居住していた借家の扱いが問題になることがあります。
被相続人死亡により、賃貸借契約は終了する、と思いきや、賃借権も権利で、賃貸借契約に基づく債務と共に、相続人に相続されるルールになっております。
そうしますと被相続人と近い、実子や親戚の方が諸々の負担を負いつつ、賃貸借契約の完全終了目指して処理を進めていくことになります。
⑵ ところが被相続人と疎遠の相続人は、困ってしまいます。
・貸室内遺品を誰に渡すのか、渡さずに処分しても良いのか、
・大家さんから「遺品引き取って」と言われたが・・・・
・大家さんからリフォーム代金を請求されています
などのお話を聞くことがあります。
選択肢としては
① 覚悟をして全部引き受ける
② できそうなことは引受ける→一部相続はできないので、①と同じ結論になる【相続の承認】)
③ 知らんぷりをして引き受けない
などありますが、③のパターンが多く、誰も引き受けてくれないと大家さんが困ることになります。
独居高齢者の方が増えていらっしゃるので、このような問題は増えてきております。
4 終身建物賃貸借制度の活用
⑴ そこで「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が平成13年8月に施行され、賃貸人が高齢の居住希望者と 「居住者の死亡により賃貸借契約が終了する」内容を含む終身建物賃貸借契約を締結し、問題の解決を図ろうとしております。
注意すべきは、本法律の適用対象は、地方公共団体の長(例:東京都知事)から認可を受けた業者が賃貸人になれる、という点です。
このような契約を認可制にしたのは、このような契約を利用して、高齢者を食い物にする悪徳業者が増えることを防ぐためと考えられます。
このような制度の利用を希望なされる高齢者の方は、東京都民間住宅部など、都道府県の住宅に関する部署に問合せすると、対象業者の情報をもらえるとのことです。
⑵ ただ実はこの問題は、「居住者の死亡により賃貸借契約が終了」し、賃貸借契約が相続人に相続されないだけでは、完全な解決にはなりません。
被相続人が残した物(残置物)の問題があります。
相続人全員が相続放棄をして残置物を引き取ってくれない場合など、残置物の所有者がいない場合、その残置物の所有権は相続財産管理人が就任して管理しない限り、宙に浮いてしまいます(相続放棄後の元相続人が、自己の財物と同じ程度の注意で管理する、という最低限の義務は付きますが。)。
このような場合、大家さんが相続人ら又は相続財産管理人に対して貸室の明渡請求を行い、勝訴後、残置物を貸室から排出することができるようにはなるのですが・・・
① 相続人全員が相続放棄、かつ相続財産管理人が選任されていない場合、明け渡し請求訴訟を起こす相手がいるのか
② 仮に、大家さんが債権者として、相続財産管理人の選任を裁判所にお願いするとして、明渡をするまで、相応の費用と、すごく手間のかかる話になります。
②のような苦労をするくらいなら、リスク覚悟で、黙って貸室の処分をした方がよほど良いのではないか、という話も聞くくらいです。
⑶ そこで、そのような問題を解決する手段として、予め賃借人の方と「残置物の処理に関する委任契約」を締結し、賃借人の没後、賃貸人が残置物を処分できるような合意をすることが提唱されています。
その具体的な内容は、国土交通省および法務省による「残置物の処理等に関するモデル契約条項の解説等」に記載されています。
⑷ そして残置物の処理で、筆者が最大の問題点と認識しているのは、
「いわゆる金目のものが見つかった場合、どう適切に処理するのか」
「そもそも金目のものについて適切な処理が期待できるのか」です。
独居なされていた被相続人と、(推定)相続人としてつながりがある人が、相続放棄せずに敢えて絡んでくるケースがあるとすれば、自身が義務を負う場面ではなく、金目のものの帰属など、権利を主張できる場面と想定できるからです。
「独居者の残した財産で、多くは過少な金銭の問題だろうから、それほど目くじらを立てて対応しなくても・・・」という見方もあるのかもしれませんが・・・。
この問題点に関する契約内容を確立し、きっちりとした運用がなされなければ、この契約制度自体が成り立たないと考えています。
文言の内容はさることながら、業者が適切に金目のものの換価などをきっちり運用できるかがこの制度の鍵になると考えます。
「独居の方が亡くなったケースで、契約によると相続人が出てくるかど うかわからない状況、目の前には現金がある、それは今のところ作業員以外誰も知らない、という状況」
で適切な換価業務ができるのか。
5 最後に、令和7年10月に施行された改正法により、より上記業者登録手続が簡易化され、登録業者が増え、利用機会が広がりそうです。
良い話だと思いますが、上記4⑷の話と合わせますと、業者の増加に伴う、業者による業務の質確保が、より重い課題になるものと考えています。
以上
1 賃貸借契約は、民法上で重要な契約です。
日本の住戸数のうち、35パーセントくらいが貸家であるとのことで、そのような貸家の法律関係をどのように律するかは社会的に重要事項です。
また、他の契約(特に使用貸借・消費貸借)との違いに注意する必要があります。
例えば、建物を目的としていても、賃料など対価が発生しなければ使用貸借、目的物が建物ではなく、金銭などの代替物と呼ばれるものが目的であれば消費貸借(借りたものそのものではなく、同じものを同じだけ返すことを想定している契約)と言われています。
2 賃貸借の特徴について(特に契約期限について)
⑴ 賃貸借契約は、ある物(土地、建物その他諸々)の使用・収益をさせること、使用収益の対価、及び契約終了時の返還約束を約し、以て契約の内容とします。
⑵ 注意が必要なのは契約期限で、「無期限の」賃貸借契約は、需要はあるのかもしれませんが、民法上は最長期50年に制限されていますので、かかる合意は、法律上有効な合意ではありません。
一方「期限の定めのない」賃貸借契約は存在し、一見「無期限」の契約に見えるのですが、民法上は双方が解約申し入れできる、というルールになっています(民法第617条第1項)。
賃貸人、賃借人双方ともに解約申入れをしなければ、契約が永遠に継続する、ということになるのですが、
・賃料不払い、建物朽廃を理由とする賃貸人の解約申入れ、
・転勤、住むのに飽きたなどの理由による賃借人の解約申入れ
が、契約開始日から相応の期間経過後に行われることが多く、永遠の賃貸借、という状況はほとんど作出されないと思われます。
⑶ 土地建物賃貸借の場合、借地借家法による制限を受けるので、特に賃貸人が自由に解約できる話ではないので注意が必要です。
他の契約と異なり、賃貸借契約では、存続期間や終了期限、終了方法について特例法(借地借家法等)が定められています。
これは沿革上、賃貸人の意向が反映され、賃貸借契約終了により賃借人が不利益を受ける(生活の本拠を失う)という実態があったので、賃借人保護の観点から、法律による制限を加える必要があったからです
3 賃貸借の特徴について(相続されるのか)
⑴ 相続事件では、被相続人が居住していた借家の扱いが問題になることがあります。
被相続人死亡により、賃貸借契約は終了する、と思いきや、賃借権も権利で、賃貸借契約に基づく債務と共に、相続人に相続されるルールになっております。
そうしますと被相続人と近い、実子や親戚の方が諸々の負担を負いつつ、賃貸借契約の完全終了目指して処理を進めていくことになります。
⑵ ところが被相続人と疎遠の相続人は、困ってしまいます。
・貸室内遺品を誰に渡すのか、渡さずに処分しても良いのか、
・大家さんから「遺品引き取って」と言われたが・・・・
・大家さんからリフォーム代金を請求されています
などのお話を聞くことがあります。
選択肢としては
① 覚悟をして全部引き受ける
② できそうなことは引受ける→一部相続はできないので、①と同じ結論になる【相続の承認】)
③ 知らんぷりをして引き受けない
などありますが、③のパターンが多く、誰も引き受けてくれないと大家さんが困ることになります。
独居高齢者の方が増えていらっしゃるので、このような問題は増えてきております。
4 終身建物賃貸借制度の活用
⑴ そこで「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が平成13年8月に施行され、賃貸人が高齢の居住希望者と 「居住者の死亡により賃貸借契約が終了する」内容を含む終身建物賃貸借契約を締結し、問題の解決を図ろうとしております。
注意すべきは、本法律の適用対象は、地方公共団体の長(例:東京都知事)から認可を受けた業者が賃貸人になれる、という点です。
このような契約を認可制にしたのは、このような契約を利用して、高齢者を食い物にする悪徳業者が増えることを防ぐためと考えられます。
このような制度の利用を希望なされる高齢者の方は、東京都民間住宅部など、都道府県の住宅に関する部署に問合せすると、対象業者の情報をもらえるとのことです。
⑵ ただ実はこの問題は、「居住者の死亡により賃貸借契約が終了」し、賃貸借契約が相続人に相続されないだけでは、完全な解決にはなりません。
被相続人が残した物(残置物)の問題があります。
相続人全員が相続放棄をして残置物を引き取ってくれない場合など、残置物の所有者がいない場合、その残置物の所有権は相続財産管理人が就任して管理しない限り、宙に浮いてしまいます(相続放棄後の元相続人が、自己の財物と同じ程度の注意で管理する、という最低限の義務は付きますが。)。
このような場合、大家さんが相続人ら又は相続財産管理人に対して貸室の明渡請求を行い、勝訴後、残置物を貸室から排出することができるようにはなるのですが・・・
① 相続人全員が相続放棄、かつ相続財産管理人が選任されていない場合、明け渡し請求訴訟を起こす相手がいるのか
② 仮に、大家さんが債権者として、相続財産管理人の選任を裁判所にお願いするとして、明渡をするまで、相応の費用と、すごく手間のかかる話になります。
②のような苦労をするくらいなら、リスク覚悟で、黙って貸室の処分をした方がよほど良いのではないか、という話も聞くくらいです。
⑶ そこで、そのような問題を解決する手段として、予め賃借人の方と「残置物の処理に関する委任契約」を締結し、賃借人の没後、賃貸人が残置物を処分できるような合意をすることが提唱されています。
その具体的な内容は、国土交通省および法務省による「残置物の処理等に関するモデル契約条項の解説等」に記載されています。
⑷ そして残置物の処理で、筆者が最大の問題点と認識しているのは、
「いわゆる金目のものが見つかった場合、どう適切に処理するのか」
「そもそも金目のものについて適切な処理が期待できるのか」です。
独居なされていた被相続人と、(推定)相続人としてつながりがある人が、相続放棄せずに敢えて絡んでくるケースがあるとすれば、自身が義務を負う場面ではなく、金目のものの帰属など、権利を主張できる場面と想定できるからです。
「独居者の残した財産で、多くは過少な金銭の問題だろうから、それほど目くじらを立てて対応しなくても・・・」という見方もあるのかもしれませんが・・・。
この問題点に関する契約内容を確立し、きっちりとした運用がなされなければ、この契約制度自体が成り立たないと考えています。
文言の内容はさることながら、業者が適切に金目のものの換価などをきっちり運用できるかがこの制度の鍵になると考えます。
「独居の方が亡くなったケースで、契約によると相続人が出てくるかど うかわからない状況、目の前には現金がある、それは今のところ作業員以外誰も知らない、という状況」
で適切な換価業務ができるのか。
5 最後に、令和7年10月に施行された改正法により、より上記業者登録手続が簡易化され、登録業者が増え、利用機会が広がりそうです。
良い話だと思いますが、上記4⑷の話と合わせますと、業者の増加に伴う、業者による業務の質確保が、より重い課題になるものと考えています。
以上
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