委任契約
「委 任」
1 今回は、「委任」契約について触れたいと思います。
我々弁護士にとっては重要な契約です。
その契約の意味をちゃんと理解しないと、とてもひどい目に遭うことになります。
私が受験生のときは、委任契約と言えば、
「請負・雇用との違い」、「民法総則の代理との違い」など、
他の概念との違いが典型的な問題として出てきました。
こちらの業界に入ってからは、他の概念との違いが問題を生み出しているのはもちろんですが、
「委任契約」そのものを理解することにも注力しています。
委任契約で、
結果の請負(必ず結果が出ます、と約束する)は本当に許されないのか、
受任者としてお客様のためにどこまで行動をすべきなのか、などなど。
そして現代において、偽装請負問題(雇用契約か、請負ないし委任契約か)
など、委任契約に関する問題は尽きないと思います。
2 委任契約の契約内容
⑴ 委任契約の主な契約内容は、
「委任者からの依頼で、受任者が他人の事務処理を行うこと」
です。
弁護士を志し、勉強を始めた当時、
「事務処理」ってなんやねん、
なんか無機質な言い方だな、
と思っていたのですが・・・。
どうやら委任契約の対象として、色々な内容を含むようにするため、
よく使われる「業務」とか「法律行為」とか限定する言葉を使わなかったようです。
⑵ 委任契約の受任者にとって大事なことは、
委任者から、事務処理を行うために必要な裁量を与えてもらうことと思います。
裁量がなく、指揮命令関係に基づいてしか事務処理を行えない(雇用に近いです)となると、
事あるごとに、いちいち委任者にやるべきことを確認しなければならないことが増え、
受任者はやってられなくなると思います。
ただ、受任者である弁護士として業務を行うにあたっては、
「依頼者の方の意向を絶対に無視してはならない」
ということは強く思います。
そのことに思いを致さなくなった場合、
依頼者のために何をすべきか、どこに向かうべきか、わからなくなってしまうからです。
3 事務処理に付随する問題:復委任の問題
⑴ 事務処理の内容が複雑になり、かつ大量になってくると、
委任を受けたのは良いのですが、一人ではどうしようもなくなる時があります。
そのとき、第三者の助けを借りることが必要になります。
弁護士の場合、最初から事務所全員で委任を受ける形も多いのですが(事務所受任)、
今回は、途中から事務所の弁護士さんに事件をお願いする場合(復委任)の話をします。
⑵ 復委任とは、受任者が第三者を、事務処理の委託を行う受任者として選任することです。
本来復委任は、委任者からすれば不本意な話です。
「その人」だから任せた事件を、「その人」ではない他人にやらせるのですから。
したがって民法上、委任者の同意が必要、同意なければやむを得ない場合に限定しています。
⑶ 弁護士業界での典型例は、
この前事務所に入ったばかりの新人弁護士に、事件を担当してもらうとき、
代表弁護士から復委任状を出すことがあります。
この場合、「復代理権」授与
(復委任と類似の概念。対外的な権限である代理権を授与すること。)
の意味も兼ねます。
またお客様から委任状をいただくとき、
「復代理の選任」という委任事項を付け加えておくことも多いです。
⑷ そうはいってもお客様にしてみれば、
初見の新人弁護士が、代表弁護士(ボス)にお願いしたはずの事件処理を行うので、
なんだそれは、ということにもなりかねません。
ちなみに私は弁護士一年目のとき、こういう状況で
「この八木さんが私と一緒に事件をやるので、どうかよろしくお願いします。」
と普通に代表弁護士(ボス)の先生からお客様に紹介されました。
有難いことに、そのときは何も問題は起きませんでした。
そしてその後、その事件は「主に」一人で頑張って解決に導いたので、
少しだけ自信になりました。
そしてお客様のボスの対する信頼が厚かったからこそ、
ペーペーの自分のことを信頼してくれたのかな、とも思いました。
4 委任と代理との関係(無権代理)
⑴ 4のところで、復委任と復代理という、似たような言葉が出てきました。
委任と代理というのは似たような言葉ですが、一応、
〇 委任 受任者と委任者との関係を律する(対内的)
〇 代理 主に取引先(相手方)と本人との関係を律する(対外的)
という大きなくくりで理解できると思います。
⑵ まず委任契約をしたから、必ず代理権が付くのではないことに注意です。
委任契約は委任者との約束に基づいて受任者が事務処理を行うことなのですが、
その受任者の業務(例えば取引)の効果は、あくまでも受任者に帰属します。
ところが、受任者が「顕名」(本人のためにすることを示すこと)をして取引した場合、
その取引の効果は受任者ではなく、顕名対象である本人(委任者)に帰属します。
⑶ では受任者が顕名して、署名押印をしたまでは良いが、
その受任者が委任者(本人)から代理権授与されていない場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、無権代理という状態となり、法律行為としては無効ではあります。
ただし、委任者(本人)が「いいよいいよ」などと同意してくれた場合は、
有効となります(民法第116条)。
大抵の場合、委任契約をする際、第三者との取引等対外的な事項も任せることが多いので、
代理権授与の条項も契約内に含めるのが通常です。
⑷ 実際に起きる「無権代理」問題は、以下のとおりです。
① かつてBはA氏と委任契約(+代理権授与)をしていたが、
Bが原因のトラブルで、A氏から委任契約を解除された。
Bはその腹いせで、Aの名前でCとの間で1000万円の絵の売買契約をした
(滅権代理〔代理権消滅後の無権代理〕)。
② Dは委任契約(+代理権授与)に基づき、A氏から100万円までの絵画の売買取引を
任されていた。
しかしDは「これはイケる」と思って、Eと1000万円の絵の売買取引をしてしまった
(権限踰越代理〔与えられた権限を越えた場合の無権代理〕)
⑸ いずれのケースもA氏から「いいよいいよ」と言ってもらえなさそうです。
委任契約の場合、B,D本人が当事者になるのですが、
代理人B、Dのやり方が巧妙で、相手方のC,Eが、
B、DがホントにAの代理人であると信じて取引した場合、
A氏に契約の効果が帰属することもある、とのことです
(表見代理といいます。)。
解除されはしたが、代理権授与の外形を付与したこと(① 滅権代理)、
制限はしているものの代理権授与をしたこと(② 権限踰越代理)
が、A氏に対外的責任を負わせる根拠になると思われます。
⑹ このように、委任契約で受任者の行動範囲を縛ったとしても、
代理権授与の部分でもコントロールをしないと、委任者(A)は思わぬ無権代理行為により
損失を被ることになります。
人に物事を任せるのは難しい。
無権代理の事案にぶつかるたび、そう思います。
以上


