一般民事事件
和解
「和 解」
1 「和解」。弁護士にとっては、とっても大事な言葉で、同時に、とっても難しい言葉でもあります。
2⑴ 互譲の精神とは
民法の第695条によりますと、
「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」
とあるのですが、この中の「互いに譲歩をして」の部分を「互譲」と略し、私が和解とは何かを説明する際、まずは、この「互譲」の精神が大事なんです、とお話させていただいております。
ただ実際にやってみますと「お互いに譲歩する」というのは難しいです。
以下具体的な「互譲」の例を挙げてみます。
質的な譲歩:色々な条件付けを提案しあい、お互いに譲った、と言えるところまで具体的な条件を煮詰める場合です。
例えば貸しているアパートの一室を明け渡してほしい、という事案で、
① 立退料を払うか、
② 実は賃料支払が遅れているが、それもチャラにするか
など、貸室明渡をもとめる代わりに、相手にお金を払う、賃料を請求しない等の「譲歩」をする場合です。
量的な譲歩:貸金返還請求の事案で重要とされる要素です。例えば貸金300万円を請求している事件で、
借主「100万円なら払えるけれども・・・」
貸主「200万円ならいいんだけどなぁ・・・。」
という金額の「譲歩」をする場合です。
⑵ 和解は自由である。
⑴で互譲の例を挙げましたが、この互譲のための条件(特に質的な譲歩)はある程度自由に発想できるものではあります。当然、法に触れるような合意はダメです。
上記の例は、お金を中心に条件設定をしている印象ですが、当事者で話し合いをしているうちに、当事者が大事に思っているもの、重要と認識しているものが判明した場合、それらに関する条件付けをしてあげることで、和解がまとまる、ということもあります。
例:月に1回、会う(離婚の事案。子供の面会交流ではなく、元夫婦間のもの。離婚はするんだけど、離婚後も交友関係は維持したい、という一方の要望があったケース)
例:家を相続する代わりに、少なくとも遺産分割協議成立日から10年は、この家に住み、この家を売らない(相続の事案。亡き両親の思い出があり、家を風化させないでほしい、簡単には売ってほしくない、という、家を相続しない相続人の思いを、和解の条件にまで昇華したケース)
このような発想は、事件を担当する弁護士が、お客様の思いに耳を傾けたときに、浮かんでくる発想なのかもしれません。
また第三者としての立場にもある弁護士ゆえ、当事者間では言いにくい内容も提案できる、という要素もあります。
3 それでは皆さんが当事者として「和解」に臨む場合、どのような心構えがあればよいのでしょうか。
⑴ 過剰に「互譲」の精神を意識しすぎない
確かに「互譲」の精神は大事なんですが、あまりにもそのことを意識しすぎて、自分が本当に求めたいことを完全に見失ってしまう、ということがあります。
あまり、自分の代理人のアドバイスや、和解における相手方の要求や、間に入る方(調停委員の先生や、裁判官の方)の意見に吞まれないようにしましょう。
⑵ デッドラインを心に決めてはおく。でもそれを言うのは最初からではない。
他人の意見に呑まれないために、自身の納得できる最低限の内容を心の中で決めておくことは重要です。
別に他人に言うことはないです、ましてや、和解交渉をする相手方には。
そういう時にこそ、自分の依頼した弁護士の人に相談して、決めていくのが良いと思います。
⑶ デッドラインの決め手となるのは「最悪の想像」。
自分が想像できる「最悪の事態」を想像して、それでもこれなら許せる、という条件を決めるべきと思います。
先の貸室明渡の件で申し上げますと
ア 部屋を追い出されたら、楽しい思い出も消えちまうのかな?
イ で、追い出されて次の部屋がなくて、路頭に迷うか俺は?
ウ あと、お金がなくて契約できない、生活できないのも厳しい。
という、部屋を追い出される自分の最低限を想像したうえで、
ア (思い出もあるが、自分の部屋を)明け渡すのは認めよう。
イ でも、不動産屋さんまわりするのに最低三カ月は欲しいな。
ウ 敷金礼金とか、50万円で足りるかなあ?
と言った、追い出されても納得できる条件を考えます。
その上で、「3カ月は譲れん!」と心に決めるか、「やっぱり敷金礼金合計40万円で借りられるところにしよう」などと妥協するかを考えて行けばよいと思います。
こういうところを、自分の弁護士さんとお話すると、良い方向にお話が進むかもしれません。
⑷ さらにここで、今回明渡を請求してきた大家さん側に
「次のいい物件、そちらで御紹介いただけますか?」
という今回の和解条件とはちょっと違う提案もできそうなんですが・・・、
これはやりすぎかもしれません。
だって、仮に今回、賃料が払えなくて追い出される場合、部屋をめちゃくちゃにしたから追い出される場合、そんな信用のおけない人物を、他の物件の大家さんに紹介できるかと言えば難しいです。
かえってあなたの印象が悪くなるかもしれません。
相手への提案内容は確かに自由なんですが、注意が必要です。
⑸ 今回は貸室明渡を例に、和解のときの考え方をお話してみましたが、他の場合でも基本は変わりません。
とにかくどんな状況でも、未来の自分を明確に描き、そこに迫らんとすることが重要だと思います。
そして弁護士さんが側にいるときは、なんでも、とは申し上げませんが、色々と相談をしてみてください。
以上
事務管理
「事務管理」
1 そもそも「事務管理」という規定が民法に存在することは、良く知られてはいないかもしれません。
「お節介でやった場合でも、やってはもらったので、せめて費用くらいは出してあげた方がいいのではないかな?」
ということが世の中にはたまにあります。
それが「事務管理」です。
2⑴ ここで事務管理の要件などを書き連ねるのも悪くはないのですが、それよりも重要なことは、事務管理が成立すれば「契約をしないで作業しても、その作業により利益を受けた人から費用がもらえる」ということです。
⑵ 本来、雇用なり委任なりの条件を定める契約をして、その契約条件に沿って作業なりをして、その作業の対価としてお金をもらうのが通常です(雇用契約、委任契約など)。
ところが事務管理の場合、通りすがりの人が、土地建物の所有者に断りなく、建物周りの土地修補等作業をしたとして、土地所有者に対して、その作業費用を請求できる「こともある」のです。
そもそも所有者に断りなく土地に立ち入る点で、下手をすれば建造物侵入罪で所有者から訴えられそうな話ではあります。
しかし例えば、とある地域の緊急事態(例えば地震)において、その現場に居合わせた「あなた」が、とある土地修補の手段を講ずれば、土地(建物)の崩壊(損害)を食い止められることが見込まれるとします。
だがその土地建物所有者と連絡が取れない場合、そこにいる「あなた」は、どうすべきなのか。
⑶ 「逃げ出しても誰も責めない。」
だって「あなた」に義務はないから。
地震直後だし、自分の身も危ういのだから仕方ない。
でも、そこで土地修補手段を講じることができたのに、講じなかったことは、たぶん忘れられない(こともあると思います)。
かといって「この緊急時に修補とか言って土地をいじったせいで、かえって土地崩壊が進むんじゃないか」、など迷う要因はたくさんあります。悩ましいところです。
3 弁護士として、このような事務管理が絡みそうな相談を受けた場合、どう対応すべきなのか。
⑴ そもそも、こういった問題に対しては
「その場合は見捨ててもしょうがない」
「そりゃ、助けなきゃ道義に悖る(もとる)んではないか」
という、道義的観点からの回答に終始してしまうことがあります。
事務管理には成立要件がきちんとあるので、弁護士としては、その要件に事実を当ては めて回答しなければいけないのですが・・・。
⑵ 上記のケースのように、事務管理の成否が問題になるケースは、結構な緊急事態に置 かれた人が、冷静な判断に基づく最良の手段を取りにくい状況で、迷いに迷ったうえで、結局修補しました、という場合が結構あります。
「その迷いを誰が責められようか、この緊急時に、よくぞ修補まで実行しましたね。」という場合は多いです。
しかし、修補により土地崩落が止まればよかったのですが、逆に土地崩落がひどくなってしまった場合、やはり、その修補をした人に損害賠償責任を求めるべきではないのか、という問題が生じます。
⑶ この場合、事務管理の要件を満たせば、かかる事務管理行為は原則として違法ではなくなります(違法性阻却といいます。)。
なのでその場合、仮に修補措置中、又は修補措置後、土地崩落が起きても損害賠償責任を負う必要はありません。
ただし、かかる土地崩落が、その管理者の不注意により生じたと認められる場合は、損害賠償責任を負う、という形になっています。
不注意をしない、という注意義務が観念される以上、現場での状況を明らかにすることがとても重要になります。
⑷ そこで弁護士としては、相談者の方から当時の状況を詳細に聴取し、現場を保存した証拠(動画、音声、写真など)があるかどうかを確認します。
緊急事態で、知らず知らずのうちにスマホの録画スイッチが入ることもあれば、逆に、速攻でスマホが壊れてしまうこともありますので、まさにこう言った緊急事態における現場保存証拠の確保は「運」に左右されると思います。
その上で、事務管理要件に該当するのかどうか、管理後の注意義務に違反していないかどうかのチェックをする流れになります。
そして、損害賠償なりを請求してきた土地所有者さんとの話し合いに際しては、証拠があれば証拠に基づいて、事務管理成立の可能性を訴えつつ、
「なんもしなかったよりマシだと思いませんか?」
といった本音を封印して、冷静な話し合いを進めることをアドバイスすることになると思います。
4 改めて、事務管理成立要件の詳細は、他の方に譲りますが、現代の
日本において、事務管理の成否を検討するのは、正直難しいです。
現代の価値観は多様化しており、そもそも「道義に基づく行為」な
んて言っても、今日では万人に認められる可能性は、それほど高くは
ないかもしれません。
また事務管理として取りうる手段にしても、手段選択における即席
の調査・確認方法がある程度整っている(すぐスマホ等で確認、調査)
ので、その場で選択した行為が、
「そりゃダメでしょ。その場で、スマホで調べれば絶対ダメってすぐわかるじゃん」
と言われる可能性も高くなってしまいます。
契約社会であればあるほど、契約外の事象を扱う、事務管理成立の
余地も少なくなるのだな、と思いました。
以上
不法行為について
不法行為について
弁護士の八木と申します。
今回のテーマである「不法行為」(民法第709条)というのは、弁護士をしていると、なかなか避けては通れない請求事件の一つだと思います。
我々が依頼者の方から、相手方に対する金銭請求を依頼される場合、真っ先に考え、かつ依頼者の方にお聞きしたいのが
「相手方との契約関係」
です。どういう契約に基づいて、金銭請求できる形かを聞きたいところです。
簡単な例で申し上げると、売買契約に基づいて、モノは渡したんだけどカネを払ってくれない、という例。
だとすれば、売買契約に基づく売買代金請求をすればいいな、と。
こういった形で事件に関する内容整理を進めていくのが弁護士の基本姿勢なのですが、そういった「契約関係」がない場合の依頼もあります。
その一つが、今回のテーマ「不法行為」。
例えば、Aが街を歩いていて、いきなりBに襲われて殴られてAが怪我した場合、Aの怪我により生じた損害をBは賠償する責任を負う、ということになります。
このような場合、契約関係もへったくれもありません。
この「不法行為」事件で一番困るのは、そもそも暗がりで相手の顔を覚えてないとか、殴られたは殴られたんだが、詳細を覚えていないとか、そういう場合です。
内容がある程度決まっている契約の場合と違い、今回殴られた側(A)が、その不法行為時の状況を改めて明らかにする必要があります。
しかし肝心のご本人さん(A)の記憶が定かでない場合、相手(B)が誰だかわからない、相手(B)の存在がわかっても、内容が不明瞭なので、何の行為についての責任をBに問えばよいのかわからない、という事態に陥ることがあります。
そういう場合、ご本人(A)の記憶喚起、現地での目撃者捜索が重要になるわけです。
実際の話をしますと、例で挙げたケースの場合、警察が傷害事件として扱ってくれるならば、警察の捜査により、ある程度事実関係は明らかになることがあります。
ただ傷害の程度などから、警察が介入しない事件の場合は、自らの力で証拠を集めて、相手を探し出して、相手に事実を突きつけるしかないわけです。
このように「不法行為」に基づく請求依頼は、色々大変なことが多いのですが、何よりも、不法行為により受けた損害は、契約トラブルにより受けた損害よりも精神的なダメージが大きいことが多いです。
路上でいきなり殴られる、自転車に轢かれるなど、普通の生活やビジネスでは考えられないことにより、身体、精神にダメージを負うからです。
そういった事件において、弁護士は依頼者さんの傷ついた心に配慮しつつ、不法行為に基づく損害賠償請求事件の解決を目指していくことになります。
以上
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