民事事件
不法原因給付
不法原因給付
1 不法原因給付って何?
前回書いた不当利得返還請求権の例外であります。
あえて一言で申し上げると
「汚いことをしたのに、法に守ってもらうのは虫が良すぎる!」
とでもいうルールなのではないかと思います。
2 一例
⑴ 会社の上司A(男性)が部下のB(女性・夫あり)と、「性的なお付き合いをすれば、お金を渡す」という約束をしたとします。
で、BはAと性的なお付き合いをし、その対価としてAからBにお金を渡されたのですが・・・・。
その後、Bへの興味がなくなったのか、お金が足りなくなったのか、突然Aは態度を変えて
「あの金なんだけどさー、返してくれないかなぁ?そもそもBさん、お金貰って不貞なんてしちゃって、旦那さんは大丈夫?」
などと言い出しました。
(あの時Aは土下座までしたから、お付き合いを始めたのに・・・・、何だこの態度は!?)となったB。
それでもBはAにお金を返さなければならないのでしょうか?
⑵ この問題、結論としては「Aに返さなくてもいいよね」という感じがしますが、詳しくお話すると、以下の構成になります。
ア Aが突然、愛人契約の無効を主張。
理由:契約内容が「不貞行為の維持」という不法なもの。
いわゆる公序良俗違反(民法第90条)にあたるわけです。
だから愛人契約は無効で、BはAにお金を返せ、と。
イ 確かにAの言っていること自体は、一見筋が通ってはいます。しかし・・・
「Aよ,お前、不法を承知で愛人契約しただろう?」
という点は見逃せません。
ウ 法原則の中に
「クリーンハンズの原則」
というルールがありまして、クリーンじゃない手(汚れた手。違法な内容の契約をし ているなど)で契約した者は、法の助力を得られないというルールです。
そのルールに基づいて、不法な内容の愛人契約を締結したAは、その契約を無効と主張してお金の返還を求めるにあたり、法の助力を得られない、ということになります。
これが、708条に定める不法原因給付の考え方です。
⑶ 以上から、確かに愛人契約自体は90条違反で無効になるのですが、その無効に基づく、AのBに対するお金の不当利得返還請求は、708条本文の規定により認められないことになります。
3 民法第708条但書の適用について(不法性の大小)
⑴ それでは、こういう場合はどうでしょうか?
「BがAを脅しまくって性行為を迫り、性行為を致した後で、『不貞の関係になっちゃったのはあなたのせい。どうしてくれるの!?』とBはAを脅し、結局AはBからお金を取られた」
⑵ この場合も、不法性のある不貞行為に関する給付ではありますから、さっきのケースと同じく、民法第708条本文によりAのBに対する不当利得返還請求は認められない、となりそうです。
しかし、その不貞行為を致した経緯について、一方の不法性が高い場合(だまして誘い込んだとか、脅してお金を取ったとか)はどうでしょうか。
このケースでも「クリーンハンズの原則」を貫いて「返還請求はダメ」としてしまうと、不法性の高い行為をしたBが結果的に保護されることになります。
そういう法解釈にしてしまうと、このような不法性の高い行為を助長する一方、保護すべき対象を保護できない恐れがあります。
そこで、民法第708条但書の解釈として、不法の原因の内容、双方の不法性を考慮して、一定の場合、不法原因給付の発動を制限しています。
*不法性:公序良俗違反と認められる性質を言います。
⑶ なお、708条但書の条文は
「不法な原因が受益者に付いてのみ存した場合」
となっており、(行動の悪さなど)不法性がB(受益者)100:A(給付者)0の場合でなければ適用されない条文の体裁(「のみ」)になっております。
しかしそれでは、損失を被った者に少しでも不法の原因があれば、同条但書の適用はない、ということになり、同条但書が期待された機能(不法性の大小で事案を柔軟に判断し、法が救うべき者を救う)が果たせなくなります。
そこでここの法条は「受益者のみ」という記載にもかかわらず、
「受益者側の不法性が大きい場合は、給付者側の不法性があったとしても、同条但書は適用される」
と解釈されます(ここの説明の仕方は諸説あると思います。)。
⑷ 本件では
「BがAを脅しまくって致した」こと、「致した後でまたBがAを脅してお金を給付させた」ことから、受益者であるBの不法性は大きいと考えられます。
一方Aもまた、不法性がある不貞行為の当事者なれども、Bに脅されてしまっているので、Bと比べると不法性は低い。
したがって、民法708条但書の適用により、本件のAのBに対する不当利得返還請求には、同条本文である不法原因給付規定の適用はなく、Aの不当利得返還請求は認められることになります。
(まあこういう場合、実際に請求することはあまりないのかもしれませんが・・・。請求してしまうと、不貞行為の事情も全部、明るみに出ちゃいますから。)
4 以上、不法原因給付の原則と例外についてお話してみましたが、
⑴ 不法性の大小って、具体的にどういう基準で判断するのか
⑵ そもそも条文に書いてあることを無視して、法律の適用・不適用を決めていいのか、
などの疑問も浮かびますが、今回はこれまでにさせていただきます。
詳しくは弁護士にご相談ください。
以上
不当利得
本日は、不当利得返還請求権のことについて書きたいと思います。
この請求権は我々弁護士にとっては、使い勝手の良い請求権である反面、その請求権が成立するかどうか、悩むこともあります。
1 使い勝手の良い請求権
⑴ 民法上、色々な契約に基づく請求権が定められています。
売買契約に基づく売買代金請求権、
賃貸借契約に基づく賃料請求権、
請負契約に基づく請負代金請求権・・・。
そんな請求権の中で、不当利得返還請求権は、そういった民法上の定めのない領域でも、民事上の請求権として認められる可能性を持った「補充的な」請求権とも言われています。
民法に定めのある請求権のカタログに当てはまらければ、不当利得の成否を考えよう、というわけです。
今までに、不当利得返還請求権の対象と認められたものとしては、
ア 過払い金返還請求権
イ 遺産の使い込みがあった場合の返還請求権、
ウ 契約が無効になった場合の返還請求権、
エ 誤振込があった場合の金銭返還請求権
などがあります。
⑵ 特に有名なのが、アの過払い金返還請求権。
金融会社が違法な金利を取っていた場合、違法な金利を取った範囲で借主に返還するべし、という内容なのですが、法律上は不当利得返還請求権で観念される、と言われています。
以前出てきた不法行為に基づく損害賠償請求、又は債務不履行に基づく損害賠償請求という構成も、なくはないのですが、
ア 過払い金が発生したことについて、受益者の故意過失をどう主張立証するかという問題(不法行為・債務不履行共通)、
イ 過去に違法な金利で弁済を受けた、ということが、金融会社にとって何の債務不履 行にあたるのか、という債務不履行内容特定の問題
が生じ、請求をするのが容易ではなくなります。
その点、不当利得返還請求権は
ア 請求側の立証責任負担は大きくない(違法かどうか、故意過失があるかの問題などは、「基本的には」出てこない。)
イ 債務の内容を特定しなくとも、法律上の原因なくある者が利得を受け、反面他の者が損失を受け、その利得と損失との間に因果関係があれば要件を満たすと言われています。
なお、かかる過払い金返還請求における、長年にわたる金融機関との訴訟などにより、この不当利得に関する議論が更に深まったこともあるのですが、それは別稿に譲ります。
2 不当利得が成立するのかどうか
⑴ 一方、事案によっては不当利得が成立するかどうか、明確ではない、というケースもあり、頭を悩ませることもあります。
ア 遺産の使い込みがあった場合の返還請求権において、対象である預金口座から、誰がお金を下したのかわからない場合(利得を得たのは誰か?)
イ 誤振込があった場合の金銭返還請求において、諸事情により、振り込まれた口座の特定ができない場合(利得を得たのは誰か?)。
ウ 契約が無効になった場合の不当利得返還請求として、どこまでが「利得」として認められるのか(利得の範囲。解除した者の言い分が全部認められるのか?)。
⑵ また、不当利得の成否を検討するにあたり、明文に定めはないのですが、公平の観点から不当利得を認めるのが妥当かどうか、を実質的な要件とすべき、という考え方もあります。
このような考え方は、「公平」という曖昧な基準により、不当利得の成否が委ねられることから、法的安定性を欠く(不当利得が認められるかどうか、『より』わかんなくなる)と批判されることもあります。
しかし不当利得返還請求権を認める趣旨が、補充的な観点から、当事者の公平維持を図ることではあるので、そのような要件を付け加えることもやむを得ないのではないか、と思います。
3 このように不当利得返還請求権は、事案に登場する場面も多いのですが、その請求権の成否が問題になることも多いです。
弁護士として、事案解決のために、カタログとしての民法に定められた請求権の内容を知悉し、活用することは当然として、不当利得返還請求権の成否についても頭を巡らすことが重要なのではないか、と思います。
以上
不法行為について
不法行為について
弁護士の八木と申します。
今回のテーマである「不法行為」(民法第709条)というのは、弁護士をしていると、なかなか避けては通れない請求事件の一つだと思います。
我々が依頼者の方から、相手方に対する金銭請求を依頼される場合、真っ先に考え、かつ依頼者の方にお聞きしたいのが
「相手方との契約関係」
です。どういう契約に基づいて、金銭請求できる形かを聞きたいところです。
簡単な例で申し上げると、売買契約に基づいて、モノは渡したんだけどカネを払ってくれない、という例。
だとすれば、売買契約に基づく売買代金請求をすればいいな、と。
こういった形で事件に関する内容整理を進めていくのが弁護士の基本姿勢なのですが、そういった「契約関係」がない場合の依頼もあります。
その一つが、今回のテーマ「不法行為」。
例えば、Aが街を歩いていて、いきなりBに襲われて殴られてAが怪我した場合、Aの怪我により生じた損害をBは賠償する責任を負う、ということになります。
このような場合、契約関係もへったくれもありません。
この「不法行為」事件で一番困るのは、そもそも暗がりで相手の顔を覚えてないとか、殴られたは殴られたんだが、詳細を覚えていないとか、そういう場合です。
内容がある程度決まっている契約の場合と違い、今回殴られた側(A)が、その不法行為時の状況を改めて明らかにする必要があります。
しかし肝心のご本人さん(A)の記憶が定かでない場合、相手(B)が誰だかわからない、相手(B)の存在がわかっても、内容が不明瞭なので、何の行為についての責任をBに問えばよいのかわからない、という事態に陥ることがあります。
そういう場合、ご本人(A)の記憶喚起、現地での目撃者捜索が重要になるわけです。
実際の話をしますと、例で挙げたケースの場合、警察が傷害事件として扱ってくれるならば、警察の捜査により、ある程度事実関係は明らかになることがあります。
ただ傷害の程度などから、警察が介入しない事件の場合は、自らの力で証拠を集めて、相手を探し出して、相手に事実を突きつけるしかないわけです。
このように「不法行為」に基づく請求依頼は、色々大変なことが多いのですが、何よりも、不法行為により受けた損害は、契約トラブルにより受けた損害よりも精神的なダメージが大きいことが多いです。
路上でいきなり殴られる、自転車に轢かれるなど、普通の生活やビジネスでは考えられないことにより、身体、精神にダメージを負うからです。
そういった事件において、弁護士は依頼者さんの傷ついた心に配慮しつつ、不法行為に基づく損害賠償請求事件の解決を目指していくことになります。
以上
離婚事件について
離婚事件について
当職は、ここ十年で、相続事件を扱うことが多いのですが、以前は離婚事件の取り扱いも多かったです。
離婚事件の代理人をしていて思ったのは、やはり人の心はわからない、ということです。
弁護士として、離婚手続きに関する知識や、離婚調停における運用など、少しは身についたつもりではいますが、担当した離婚事件を最良の結果で終えるためにはどうすればよいか、については、いまだに答えが出ないままです。
人によっては、
「離婚事件は心が重くなるので、早く事件から解放してあげた方がいいので、多少不利な条件でも早く終わらせてあげた方が最良ではないか」
という意見もあれば、
「もうここ(訴訟)まで来てるんだったら、徹底的にやって本懐を遂げさせてあげた方が最良ではないか」
という意見もあります。
当職は、これまで担当した離婚事件では、お客様とお話して、お客様の本懐をお聞きし、その本懐を遂げていただきたい、という思いの方が強くでているな、と思いました。
ただ、お客様のご様子から、これはもう、早めに離婚合意した方が良いと判断した場合は、早期の和解をお勧めしたりしました。
当職、このような基準でお客様に接してきたのですが、そのご提案の際、お客様の反応をみますと、「あなたの言う提案は、私にとって必ずしもベストの回答ではない」という印象を受けることもあります。
「徹底的にやってほしい」と希望はしたものの、本当にここまでやっていいのだろうか。
「早く終わらせてくれ!」と言ったものの、本当にこの条件で終わりにしてよいのか。
「というより、離婚して良いのか、これ?」
お客様の中で、色々な思いが交錯なさっているのを感じることもあります。
そのような交錯する思いを踏まえたうえで、適切な提案ができれば良いのですが・・。
自分の経験ごときでは、お客様の心を完全に理解して、適切な提案をすること等、難しいな、と落ち込むことが多いです。
それでもお客様には、どちらかに決めてもらわなければならないので、当職としてはもう、お客様と検討を重ね、方針を決めていくしかない、という考えです。
離婚事件は重いです。人生の重要な分岐点だと思っています。
そんな分岐点に立っているお客様を支え、本懐を遂げてもらうことが、離婚事件における当職の役割だと思っています。
以上
相続とは何か
相続とは何か
弁護士の八木と申します。
令和7年1月から弁護士法人心さんで仕事をし始めて、半年が経とうとしております。
その中で、相続の仕事を数多くさせていただいております。
その相続の仕事をしていて思うのは、「相続とは何か」。
そう思うきっかけはいくつもあります。
なぜ、仲の良かったはずの兄弟姉妹、親子が、こんなにいがみ合うのか。
なぜ、第三者の立場から考えると、こうするべき、と思うのに、なさらないのか。
なぜ、色々な人の意見、意思に背いてでも、自分の意見、意思を通そうとなさるのか。
他の事件と比べて、相続事件の場合、こういう思いを抱くことが多いです。
当職は、依頼者の方と共に歩み、依頼者の方の思いを具現化することを目的として事件に携わっているのですが、反面、以上の思いを抱いてしまうことは否定できません。
あんなに仲が良かったのに、あのとき、裏切られたと思ったから。
これは自分たちだけの問題で、第三者の意見など関係ないから。
ここで家族に対して自分の意見、意思を通さないと、自分が自分でなくなるから。
事件を通じて、当職が「なぜ」と思うことについて、色々な理由があると思いました。
そしてその理由は、一時的に事件に関わる代理人ごときが、否定すべきものではないのだ、とも思いました。
弁護士になりたてのときは、いまいちそのことに気づいていなかったのですが、そのことに気づき始めてから、代理人として何をすべきなのか、何をしたらよいのか、少しずつですが、分かるようになった気がします。
そして、「相続とは何か」という問いに対する確定的な答えは、まだ出せてないです。
あえて申し上げるなら、上記のような依頼者様の思いを踏まえ、相続とは、
「家族関係を改めて考えねばならない、そして自分の意思を決めねばならない契機」
というのが今の答えです。
そして、その契機にどう向き合われるのか、について依頼者様のサポートをすることも、当職の使命の一つと思いました。
以上とりとめのない話ではありますが、むしろ、このような媒体ですべき話なのかな、と思い、書いてみました。
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