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和解
「和 解」
1 「和解」。弁護士にとっては、とっても大事な言葉で、同時に、とっても難しい言葉でもあります。
2⑴ 互譲の精神とは
民法の第695条によりますと、
「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。」
とあるのですが、この中の「互いに譲歩をして」の部分を「互譲」と略し、私が和解とは何かを説明する際、まずは、この「互譲」の精神が大事なんです、とお話させていただいております。
ただ実際にやってみますと「お互いに譲歩する」というのは難しいです。
以下具体的な「互譲」の例を挙げてみます。
質的な譲歩:色々な条件付けを提案しあい、お互いに譲った、と言えるところまで具体的な条件を煮詰める場合です。
例えば貸しているアパートの一室を明け渡してほしい、という事案で、
① 立退料を払うか、
② 実は賃料支払が遅れているが、それもチャラにするか
など、貸室明渡をもとめる代わりに、相手にお金を払う、賃料を請求しない等の「譲歩」をする場合です。
量的な譲歩:貸金返還請求の事案で重要とされる要素です。例えば貸金300万円を請求している事件で、
借主「100万円なら払えるけれども・・・」
貸主「200万円ならいいんだけどなぁ・・・。」
という金額の「譲歩」をする場合です。
⑵ 和解は自由である。
⑴で互譲の例を挙げましたが、この互譲のための条件(特に質的な譲歩)はある程度自由に発想できるものではあります。当然、法に触れるような合意はダメです。
上記の例は、お金を中心に条件設定をしている印象ですが、当事者で話し合いをしているうちに、当事者が大事に思っているもの、重要と認識しているものが判明した場合、それらに関する条件付けをしてあげることで、和解がまとまる、ということもあります。
例:月に1回、会う(離婚の事案。子供の面会交流ではなく、元夫婦間のもの。離婚はするんだけど、離婚後も交友関係は維持したい、という一方の要望があったケース)
例:家を相続する代わりに、少なくとも遺産分割協議成立日から10年は、この家に住み、この家を売らない(相続の事案。亡き両親の思い出があり、家を風化させないでほしい、簡単には売ってほしくない、という、家を相続しない相続人の思いを、和解の条件にまで昇華したケース)
このような発想は、事件を担当する弁護士が、お客様の思いに耳を傾けたときに、浮かんでくる発想なのかもしれません。
また第三者としての立場にもある弁護士ゆえ、当事者間では言いにくい内容も提案できる、という要素もあります。
3 それでは皆さんが当事者として「和解」に臨む場合、どのような心構えがあればよいのでしょうか。
⑴ 過剰に「互譲」の精神を意識しすぎない
確かに「互譲」の精神は大事なんですが、あまりにもそのことを意識しすぎて、自分が本当に求めたいことを完全に見失ってしまう、ということがあります。
あまり、自分の代理人のアドバイスや、和解における相手方の要求や、間に入る方(調停委員の先生や、裁判官の方)の意見に吞まれないようにしましょう。
⑵ デッドラインを心に決めてはおく。でもそれを言うのは最初からではない。
他人の意見に呑まれないために、自身の納得できる最低限の内容を心の中で決めておくことは重要です。
別に他人に言うことはないです、ましてや、和解交渉をする相手方には。
そういう時にこそ、自分の依頼した弁護士の人に相談して、決めていくのが良いと思います。
⑶ デッドラインの決め手となるのは「最悪の想像」。
自分が想像できる「最悪の事態」を想像して、それでもこれなら許せる、という条件を決めるべきと思います。
先の貸室明渡の件で申し上げますと
ア 部屋を追い出されたら、楽しい思い出も消えちまうのかな?
イ で、追い出されて次の部屋がなくて、路頭に迷うか俺は?
ウ あと、お金がなくて契約できない、生活できないのも厳しい。
という、部屋を追い出される自分の最低限を想像したうえで、
ア (思い出もあるが、自分の部屋を)明け渡すのは認めよう。
イ でも、不動産屋さんまわりするのに最低三カ月は欲しいな。
ウ 敷金礼金とか、50万円で足りるかなあ?
と言った、追い出されても納得できる条件を考えます。
その上で、「3カ月は譲れん!」と心に決めるか、「やっぱり敷金礼金合計40万円で借りられるところにしよう」などと妥協するかを考えて行けばよいと思います。
こういうところを、自分の弁護士さんとお話すると、良い方向にお話が進むかもしれません。
⑷ さらにここで、今回明渡を請求してきた大家さん側に
「次のいい物件、そちらで御紹介いただけますか?」
という今回の和解条件とはちょっと違う提案もできそうなんですが・・・、
これはやりすぎかもしれません。
だって、仮に今回、賃料が払えなくて追い出される場合、部屋をめちゃくちゃにしたから追い出される場合、そんな信用のおけない人物を、他の物件の大家さんに紹介できるかと言えば難しいです。
かえってあなたの印象が悪くなるかもしれません。
相手への提案内容は確かに自由なんですが、注意が必要です。
⑸ 今回は貸室明渡を例に、和解のときの考え方をお話してみましたが、他の場合でも基本は変わりません。
とにかくどんな状況でも、未来の自分を明確に描き、そこに迫らんとすることが重要だと思います。
そして弁護士さんが側にいるときは、なんでも、とは申し上げませんが、色々と相談をしてみてください。
以上
事務管理
「事務管理」
1 そもそも「事務管理」という規定が民法に存在することは、良く知られてはいないかもしれません。
「お節介でやった場合でも、やってはもらったので、せめて費用くらいは出してあげた方がいいのではないかな?」
ということが世の中にはたまにあります。
それが「事務管理」です。
2⑴ ここで事務管理の要件などを書き連ねるのも悪くはないのですが、それよりも重要なことは、事務管理が成立すれば「契約をしないで作業しても、その作業により利益を受けた人から費用がもらえる」ということです。
⑵ 本来、雇用なり委任なりの条件を定める契約をして、その契約条件に沿って作業なりをして、その作業の対価としてお金をもらうのが通常です(雇用契約、委任契約など)。
ところが事務管理の場合、通りすがりの人が、土地建物の所有者に断りなく、建物周りの土地修補等作業をしたとして、土地所有者に対して、その作業費用を請求できる「こともある」のです。
そもそも所有者に断りなく土地に立ち入る点で、下手をすれば建造物侵入罪で所有者から訴えられそうな話ではあります。
しかし例えば、とある地域の緊急事態(例えば地震)において、その現場に居合わせた「あなた」が、とある土地修補の手段を講ずれば、土地(建物)の崩壊(損害)を食い止められることが見込まれるとします。
だがその土地建物所有者と連絡が取れない場合、そこにいる「あなた」は、どうすべきなのか。
⑶ 「逃げ出しても誰も責めない。」
だって「あなた」に義務はないから。
地震直後だし、自分の身も危ういのだから仕方ない。
でも、そこで土地修補手段を講じることができたのに、講じなかったことは、たぶん忘れられない(こともあると思います)。
かといって「この緊急時に修補とか言って土地をいじったせいで、かえって土地崩壊が進むんじゃないか」、など迷う要因はたくさんあります。悩ましいところです。
3 弁護士として、このような事務管理が絡みそうな相談を受けた場合、どう対応すべきなのか。
⑴ そもそも、こういった問題に対しては
「その場合は見捨ててもしょうがない」
「そりゃ、助けなきゃ道義に悖る(もとる)んではないか」
という、道義的観点からの回答に終始してしまうことがあります。
事務管理には成立要件がきちんとあるので、弁護士としては、その要件に事実を当ては めて回答しなければいけないのですが・・・。
⑵ 上記のケースのように、事務管理の成否が問題になるケースは、結構な緊急事態に置 かれた人が、冷静な判断に基づく最良の手段を取りにくい状況で、迷いに迷ったうえで、結局修補しました、という場合が結構あります。
「その迷いを誰が責められようか、この緊急時に、よくぞ修補まで実行しましたね。」という場合は多いです。
しかし、修補により土地崩落が止まればよかったのですが、逆に土地崩落がひどくなってしまった場合、やはり、その修補をした人に損害賠償責任を求めるべきではないのか、という問題が生じます。
⑶ この場合、事務管理の要件を満たせば、かかる事務管理行為は原則として違法ではなくなります(違法性阻却といいます。)。
なのでその場合、仮に修補措置中、又は修補措置後、土地崩落が起きても損害賠償責任を負う必要はありません。
ただし、かかる土地崩落が、その管理者の不注意により生じたと認められる場合は、損害賠償責任を負う、という形になっています。
不注意をしない、という注意義務が観念される以上、現場での状況を明らかにすることがとても重要になります。
⑷ そこで弁護士としては、相談者の方から当時の状況を詳細に聴取し、現場を保存した証拠(動画、音声、写真など)があるかどうかを確認します。
緊急事態で、知らず知らずのうちにスマホの録画スイッチが入ることもあれば、逆に、速攻でスマホが壊れてしまうこともありますので、まさにこう言った緊急事態における現場保存証拠の確保は「運」に左右されると思います。
その上で、事務管理要件に該当するのかどうか、管理後の注意義務に違反していないかどうかのチェックをする流れになります。
そして、損害賠償なりを請求してきた土地所有者さんとの話し合いに際しては、証拠があれば証拠に基づいて、事務管理成立の可能性を訴えつつ、
「なんもしなかったよりマシだと思いませんか?」
といった本音を封印して、冷静な話し合いを進めることをアドバイスすることになると思います。
4 改めて、事務管理成立要件の詳細は、他の方に譲りますが、現代の
日本において、事務管理の成否を検討するのは、正直難しいです。
現代の価値観は多様化しており、そもそも「道義に基づく行為」な
んて言っても、今日では万人に認められる可能性は、それほど高くは
ないかもしれません。
また事務管理として取りうる手段にしても、手段選択における即席
の調査・確認方法がある程度整っている(すぐスマホ等で確認、調査)
ので、その場で選択した行為が、
「そりゃダメでしょ。その場で、スマホで調べれば絶対ダメってすぐわかるじゃん」
と言われる可能性も高くなってしまいます。
契約社会であればあるほど、契約外の事象を扱う、事務管理成立の
余地も少なくなるのだな、と思いました。
以上
不法原因給付
不法原因給付
1 不法原因給付って何?
前回書いた不当利得返還請求権の例外であります。
あえて一言で申し上げると
「汚いことをしたのに、法に守ってもらうのは虫が良すぎる!」
とでもいうルールなのではないかと思います。
2 一例
⑴ 会社の上司A(男性)が部下のB(女性・夫あり)と、「性的なお付き合いをすれば、お金を渡す」という約束をしたとします。
で、BはAと性的なお付き合いをし、その対価としてAからBにお金を渡されたのですが・・・・。
その後、Bへの興味がなくなったのか、お金が足りなくなったのか、突然Aは態度を変えて
「あの金なんだけどさー、返してくれないかなぁ?そもそもBさん、お金貰って不貞なんてしちゃって、旦那さんは大丈夫?」
などと言い出しました。
(あの時Aは土下座までしたから、お付き合いを始めたのに・・・・、何だこの態度は!?)となったB。
それでもBはAにお金を返さなければならないのでしょうか?
⑵ この問題、結論としては「Aに返さなくてもいいよね」という感じがしますが、詳しくお話すると、以下の構成になります。
ア Aが突然、愛人契約の無効を主張。
理由:契約内容が「不貞行為の維持」という不法なもの。
いわゆる公序良俗違反(民法第90条)にあたるわけです。
だから愛人契約は無効で、BはAにお金を返せ、と。
イ 確かにAの言っていること自体は、一見筋が通ってはいます。しかし・・・
「Aよ,お前、不法を承知で愛人契約しただろう?」
という点は見逃せません。
ウ 法原則の中に
「クリーンハンズの原則」
というルールがありまして、クリーンじゃない手(汚れた手。違法な内容の契約をし ているなど)で契約した者は、法の助力を得られないというルールです。
そのルールに基づいて、不法な内容の愛人契約を締結したAは、その契約を無効と主張してお金の返還を求めるにあたり、法の助力を得られない、ということになります。
これが、708条に定める不法原因給付の考え方です。
⑶ 以上から、確かに愛人契約自体は90条違反で無効になるのですが、その無効に基づく、AのBに対するお金の不当利得返還請求は、708条本文の規定により認められないことになります。
3 民法第708条但書の適用について(不法性の大小)
⑴ それでは、こういう場合はどうでしょうか?
「BがAを脅しまくって性行為を迫り、性行為を致した後で、『不貞の関係になっちゃったのはあなたのせい。どうしてくれるの!?』とBはAを脅し、結局AはBからお金を取られた」
⑵ この場合も、不法性のある不貞行為に関する給付ではありますから、さっきのケースと同じく、民法第708条本文によりAのBに対する不当利得返還請求は認められない、となりそうです。
しかし、その不貞行為を致した経緯について、一方の不法性が高い場合(だまして誘い込んだとか、脅してお金を取ったとか)はどうでしょうか。
このケースでも「クリーンハンズの原則」を貫いて「返還請求はダメ」としてしまうと、不法性の高い行為をしたBが結果的に保護されることになります。
そういう法解釈にしてしまうと、このような不法性の高い行為を助長する一方、保護すべき対象を保護できない恐れがあります。
そこで、民法第708条但書の解釈として、不法の原因の内容、双方の不法性を考慮して、一定の場合、不法原因給付の発動を制限しています。
*不法性:公序良俗違反と認められる性質を言います。
⑶ なお、708条但書の条文は
「不法な原因が受益者に付いてのみ存した場合」
となっており、(行動の悪さなど)不法性がB(受益者)100:A(給付者)0の場合でなければ適用されない条文の体裁(「のみ」)になっております。
しかしそれでは、損失を被った者に少しでも不法の原因があれば、同条但書の適用はない、ということになり、同条但書が期待された機能(不法性の大小で事案を柔軟に判断し、法が救うべき者を救う)が果たせなくなります。
そこでここの法条は「受益者のみ」という記載にもかかわらず、
「受益者側の不法性が大きい場合は、給付者側の不法性があったとしても、同条但書は適用される」
と解釈されます(ここの説明の仕方は諸説あると思います。)。
⑷ 本件では
「BがAを脅しまくって致した」こと、「致した後でまたBがAを脅してお金を給付させた」ことから、受益者であるBの不法性は大きいと考えられます。
一方Aもまた、不法性がある不貞行為の当事者なれども、Bに脅されてしまっているので、Bと比べると不法性は低い。
したがって、民法708条但書の適用により、本件のAのBに対する不当利得返還請求には、同条本文である不法原因給付規定の適用はなく、Aの不当利得返還請求は認められることになります。
(まあこういう場合、実際に請求することはあまりないのかもしれませんが・・・。請求してしまうと、不貞行為の事情も全部、明るみに出ちゃいますから。)
4 以上、不法原因給付の原則と例外についてお話してみましたが、
⑴ 不法性の大小って、具体的にどういう基準で判断するのか
⑵ そもそも条文に書いてあることを無視して、法律の適用・不適用を決めていいのか、
などの疑問も浮かびますが、今回はこれまでにさせていただきます。
詳しくは弁護士にご相談ください。
以上
不当利得
本日は、不当利得返還請求権のことについて書きたいと思います。
この請求権は我々弁護士にとっては、使い勝手の良い請求権である反面、その請求権が成立するかどうか、悩むこともあります。
1 使い勝手の良い請求権
⑴ 民法上、色々な契約に基づく請求権が定められています。
売買契約に基づく売買代金請求権、
賃貸借契約に基づく賃料請求権、
請負契約に基づく請負代金請求権・・・。
そんな請求権の中で、不当利得返還請求権は、そういった民法上の定めのない領域でも、民事上の請求権として認められる可能性を持った「補充的な」請求権とも言われています。
民法に定めのある請求権のカタログに当てはまらければ、不当利得の成否を考えよう、というわけです。
今までに、不当利得返還請求権の対象と認められたものとしては、
ア 過払い金返還請求権
イ 遺産の使い込みがあった場合の返還請求権、
ウ 契約が無効になった場合の返還請求権、
エ 誤振込があった場合の金銭返還請求権
などがあります。
⑵ 特に有名なのが、アの過払い金返還請求権。
金融会社が違法な金利を取っていた場合、違法な金利を取った範囲で借主に返還するべし、という内容なのですが、法律上は不当利得返還請求権で観念される、と言われています。
以前出てきた不法行為に基づく損害賠償請求、又は債務不履行に基づく損害賠償請求という構成も、なくはないのですが、
ア 過払い金が発生したことについて、受益者の故意過失をどう主張立証するかという問題(不法行為・債務不履行共通)、
イ 過去に違法な金利で弁済を受けた、ということが、金融会社にとって何の債務不履 行にあたるのか、という債務不履行内容特定の問題
が生じ、請求をするのが容易ではなくなります。
その点、不当利得返還請求権は
ア 請求側の立証責任負担は大きくない(違法かどうか、故意過失があるかの問題などは、「基本的には」出てこない。)
イ 債務の内容を特定しなくとも、法律上の原因なくある者が利得を受け、反面他の者が損失を受け、その利得と損失との間に因果関係があれば要件を満たすと言われています。
なお、かかる過払い金返還請求における、長年にわたる金融機関との訴訟などにより、この不当利得に関する議論が更に深まったこともあるのですが、それは別稿に譲ります。
2 不当利得が成立するのかどうか
⑴ 一方、事案によっては不当利得が成立するかどうか、明確ではない、というケースもあり、頭を悩ませることもあります。
ア 遺産の使い込みがあった場合の返還請求権において、対象である預金口座から、誰がお金を下したのかわからない場合(利得を得たのは誰か?)
イ 誤振込があった場合の金銭返還請求において、諸事情により、振り込まれた口座の特定ができない場合(利得を得たのは誰か?)。
ウ 契約が無効になった場合の不当利得返還請求として、どこまでが「利得」として認められるのか(利得の範囲。解除した者の言い分が全部認められるのか?)。
⑵ また、不当利得の成否を検討するにあたり、明文に定めはないのですが、公平の観点から不当利得を認めるのが妥当かどうか、を実質的な要件とすべき、という考え方もあります。
このような考え方は、「公平」という曖昧な基準により、不当利得の成否が委ねられることから、法的安定性を欠く(不当利得が認められるかどうか、『より』わかんなくなる)と批判されることもあります。
しかし不当利得返還請求権を認める趣旨が、補充的な観点から、当事者の公平維持を図ることではあるので、そのような要件を付け加えることもやむを得ないのではないか、と思います。
3 このように不当利得返還請求権は、事案に登場する場面も多いのですが、その請求権の成否が問題になることも多いです。
弁護士として、事案解決のために、カタログとしての民法に定められた請求権の内容を知悉し、活用することは当然として、不当利得返還請求権の成否についても頭を巡らすことが重要なのではないか、と思います。
以上
不法行為について
不法行為について
弁護士の八木と申します。
今回のテーマである「不法行為」(民法第709条)というのは、弁護士をしていると、なかなか避けては通れない請求事件の一つだと思います。
我々が依頼者の方から、相手方に対する金銭請求を依頼される場合、真っ先に考え、かつ依頼者の方にお聞きしたいのが
「相手方との契約関係」
です。どういう契約に基づいて、金銭請求できる形かを聞きたいところです。
簡単な例で申し上げると、売買契約に基づいて、モノは渡したんだけどカネを払ってくれない、という例。
だとすれば、売買契約に基づく売買代金請求をすればいいな、と。
こういった形で事件に関する内容整理を進めていくのが弁護士の基本姿勢なのですが、そういった「契約関係」がない場合の依頼もあります。
その一つが、今回のテーマ「不法行為」。
例えば、Aが街を歩いていて、いきなりBに襲われて殴られてAが怪我した場合、Aの怪我により生じた損害をBは賠償する責任を負う、ということになります。
このような場合、契約関係もへったくれもありません。
この「不法行為」事件で一番困るのは、そもそも暗がりで相手の顔を覚えてないとか、殴られたは殴られたんだが、詳細を覚えていないとか、そういう場合です。
内容がある程度決まっている契約の場合と違い、今回殴られた側(A)が、その不法行為時の状況を改めて明らかにする必要があります。
しかし肝心のご本人さん(A)の記憶が定かでない場合、相手(B)が誰だかわからない、相手(B)の存在がわかっても、内容が不明瞭なので、何の行為についての責任をBに問えばよいのかわからない、という事態に陥ることがあります。
そういう場合、ご本人(A)の記憶喚起、現地での目撃者捜索が重要になるわけです。
実際の話をしますと、例で挙げたケースの場合、警察が傷害事件として扱ってくれるならば、警察の捜査により、ある程度事実関係は明らかになることがあります。
ただ傷害の程度などから、警察が介入しない事件の場合は、自らの力で証拠を集めて、相手を探し出して、相手に事実を突きつけるしかないわけです。
このように「不法行為」に基づく請求依頼は、色々大変なことが多いのですが、何よりも、不法行為により受けた損害は、契約トラブルにより受けた損害よりも精神的なダメージが大きいことが多いです。
路上でいきなり殴られる、自転車に轢かれるなど、普通の生活やビジネスでは考えられないことにより、身体、精神にダメージを負うからです。
そういった事件において、弁護士は依頼者さんの傷ついた心に配慮しつつ、不法行為に基づく損害賠償請求事件の解決を目指していくことになります。
以上
離婚事件について
離婚事件について
当職は、ここ十年で、相続事件を扱うことが多いのですが、以前は離婚事件の取り扱いも多かったです。
離婚事件の代理人をしていて思ったのは、やはり人の心はわからない、ということです。
弁護士として、離婚手続きに関する知識や、離婚調停における運用など、少しは身についたつもりではいますが、担当した離婚事件を最良の結果で終えるためにはどうすればよいか、については、いまだに答えが出ないままです。
人によっては、
「離婚事件は心が重くなるので、早く事件から解放してあげた方がいいので、多少不利な条件でも早く終わらせてあげた方が最良ではないか」
という意見もあれば、
「もうここ(訴訟)まで来てるんだったら、徹底的にやって本懐を遂げさせてあげた方が最良ではないか」
という意見もあります。
当職は、これまで担当した離婚事件では、お客様とお話して、お客様の本懐をお聞きし、その本懐を遂げていただきたい、という思いの方が強くでているな、と思いました。
ただ、お客様のご様子から、これはもう、早めに離婚合意した方が良いと判断した場合は、早期の和解をお勧めしたりしました。
当職、このような基準でお客様に接してきたのですが、そのご提案の際、お客様の反応をみますと、「あなたの言う提案は、私にとって必ずしもベストの回答ではない」という印象を受けることもあります。
「徹底的にやってほしい」と希望はしたものの、本当にここまでやっていいのだろうか。
「早く終わらせてくれ!」と言ったものの、本当にこの条件で終わりにしてよいのか。
「というより、離婚して良いのか、これ?」
お客様の中で、色々な思いが交錯なさっているのを感じることもあります。
そのような交錯する思いを踏まえたうえで、適切な提案ができれば良いのですが・・。
自分の経験ごときでは、お客様の心を完全に理解して、適切な提案をすること等、難しいな、と落ち込むことが多いです。
それでもお客様には、どちらかに決めてもらわなければならないので、当職としてはもう、お客様と検討を重ね、方針を決めていくしかない、という考えです。
離婚事件は重いです。人生の重要な分岐点だと思っています。
そんな分岐点に立っているお客様を支え、本懐を遂げてもらうことが、離婚事件における当職の役割だと思っています。
以上
相続とは何か
相続とは何か
弁護士の八木と申します。
令和7年1月から弁護士法人心さんで仕事をし始めて、半年が経とうとしております。
その中で、相続の仕事を数多くさせていただいております。
その相続の仕事をしていて思うのは、「相続とは何か」。
そう思うきっかけはいくつもあります。
なぜ、仲の良かったはずの兄弟姉妹、親子が、こんなにいがみ合うのか。
なぜ、第三者の立場から考えると、こうするべき、と思うのに、なさらないのか。
なぜ、色々な人の意見、意思に背いてでも、自分の意見、意思を通そうとなさるのか。
他の事件と比べて、相続事件の場合、こういう思いを抱くことが多いです。
当職は、依頼者の方と共に歩み、依頼者の方の思いを具現化することを目的として事件に携わっているのですが、反面、以上の思いを抱いてしまうことは否定できません。
あんなに仲が良かったのに、あのとき、裏切られたと思ったから。
これは自分たちだけの問題で、第三者の意見など関係ないから。
ここで家族に対して自分の意見、意思を通さないと、自分が自分でなくなるから。
事件を通じて、当職が「なぜ」と思うことについて、色々な理由があると思いました。
そしてその理由は、一時的に事件に関わる代理人ごときが、否定すべきものではないのだ、とも思いました。
弁護士になりたてのときは、いまいちそのことに気づいていなかったのですが、そのことに気づき始めてから、代理人として何をすべきなのか、何をしたらよいのか、少しずつですが、分かるようになった気がします。
そして、「相続とは何か」という問いに対する確定的な答えは、まだ出せてないです。
あえて申し上げるなら、上記のような依頼者様の思いを踏まえ、相続とは、
「家族関係を改めて考えねばならない、そして自分の意思を決めねばならない契機」
というのが今の答えです。
そして、その契機にどう向き合われるのか、について依頼者様のサポートをすることも、当職の使命の一つと思いました。
以上とりとめのない話ではありますが、むしろ、このような媒体ですべき話なのかな、と思い、書いてみました。
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